歴史を変えたコンテンツの共通点 角川歴彦×川上量生対談(3)
あらゆるコンテンツは過去の焼き直しにすぎない
川上:あとひとつ思うのは、新しいプラットフォームで何をやるのかということ。ネットユーザーさんは「新しいプラットフォームで新しいことをやってくれ」ということをずっと言い続けるんだけど、僕はそれは無理だと思っています。古い革袋に新しい酒を入れるじゃないですけど、結局、同じことをやるんです。コンテンツの進化のプロセスというのはだいたい決まっていて、昔のプラットフォームでやった一連のプロセスを、現代的なプラットフォームに乗せ変えて、もう一度やり直すのです。これがきっとテーマだなと思うんですよね。
今までの歴史の中でなかったことをゼロから始めようということになると、それは現代芸術の世界になってしまう。それでは普通の人はついていけません。
——あるコンテンツの広がり方を見ていて、どこか既視感があるなと感じるのは、似たようなサイクルをたどっているということなのでしょうか。
川上:そうです。それが正しいんですよ。人間だって世代交代しているわけだから。だから、昔やったものをどのように今の時代なりに新しくよみがえらせるかということですよね。
角川:小説でいうと、19世紀半ばにアレクサンドル・デュマの『モンテ・クリスト伯(巌窟王)』や『三銃士』が出てきた時点で、物語の骨格はだいたい出来上がってしまった。それから、「昴−すばる−」をつくった谷村新司さんは、1970年代にあらゆる音楽が生まれたと言っていました。それ以降は、もうどこかからメロディやフレーズを持ってくるしかなくなったと。
川上:僕はこの前、ジブリの鈴木さんに薦められて『アラビアのロレンス』(1962年の英国映画。デヴィッド・リーン監督)を見たんですけれども、ストーリーが完全に『アバター』(2009年の米国映画。美しい3D映像で世界興行収入歴代1位を達成。ジェイムズ・キャメロン監督)ですよね。
それに、主人公がすごい内向的で、とにかくウジウジして決断しない、というのは日本のドラマや映画の特徴だと思っていたのですが、『アラビアのロレンス』の主人公は、めちゃめちゃウジウジしていたのです。悩んでばっかりで。
角川:そうそう(笑)。あっけなく死んじゃうしね。
川上:だから、完全にオリジナルなものなんて、本当はそんなにないのです。知らないからオリジナルだと思っているだけで。でも、一流のクリエーターほど、自分たちは巨人の肩の上に乗っている存在だと認めています。