歴史を変えたコンテンツの共通点

角川歴彦×川上量生対談(3)

角川:『三国志』と、さっきの『三銃士』もまったく同じ構造でしょ? 劉備玄徳という殿様になった人が三銃士のダルタニャンで。で、なんで劉備玄徳みたいな何の取り柄もないような人に、張飛や関羽といった優れた人が寄ってくるの? なんでダルタニャンに、みんなが寄ってくるの? いちばんわからないのはそこなんだよね。

川上:ほんとですよね。劉備玄徳みたいな人に何の魅力があるのか知りたい(笑)。

角川 歴彦(かどかわ つぐひこ)  株式会社KADOKAWA取締役会長。1943年生まれ。早稲田大学第一政治経済学部卒業。内閣官房知的財産戦略本部本部員、東京大学大学院情報学環特任教授などを務める。著書に『クラウド時代と<クール革命>』(角川書店)がある。

角川:『ロードス島戦記』(水野良のファンタジー小説。コミック、アニメ、ゲームなどに展開)なんかもそうですよ。あれも主人公パーンは人がよくて、ムキになっているだけ。あとはみんながかばってくれるという。繰り返しです。

川上:ただ、その中でだんだん洗練されていく。面白いのは、『ロードス島戦記』は歴史的な作品だと思うのですが、じゃあ今のライトノベルに比べたらどうなのかというと、ずっとライトノベルを読み続けてきた人は、今のライトノベルのほうが面白いって言うんですよ。今の時代に『ロードス島戦記』が出ても売れないと。今のライトノベルのほうがやっぱり洗練されていると言うわけです。

とはいえ、歴史的な価値というのは『ロードス島戦記』にあるわけで、今の世の中には、全然売れなくて埋もれている作品の中に、もっと優れている作品がたくさんあるわけじゃないですか。そういうことだと思うんですよね。

ヒットは意外なところから出てくる

——ヒット作というのは、どういうふうに作られるのでしょうか。

川上:固定観念に縛られる人たちが増えてしまって、そういうものが壊せないと、面白いコンテンツはできないと思うのです。

僕は大学で化学を専攻していたんですけど、化学の世界のヒエラルキーでは、60歳の教授に40歳の助教授(現在は准教授に相当)は勝てないのです。これは権力の問題じゃなく、知識で勝てない。ある程度固まっている学問領域では、先行者のほうが有利なんです。年を取っているほうが賢い。それはなかなか超えられないのだけど、ITの世界でそういうヒエラルキーが起きないのは、覚えなきゃいけない知識が変わるからです。過去の経験が役に立たないのです。

角川:そうそう。だから、僕も必死についていこうと思っているわけです。でも、その中で、ヒットするコンテンツの真理はそれほど変わらないのです。みんなが「これは当たるぞ」と思ったものは当たらなくて、何気なくぽんと出したものが当たったりする。

「艦これ」(「艦隊これくしょん」。角川ゲームスが開発・運営、DMM.comが提供する艦隊育成ゲーム)は典型です。パートナーの会社がおカネを出してくれるというので、現場が面白がって作ったら大当たりした。僕は「こんなの報告あったかなあ」と思って社内で確認すると、「会長、ちゃんと報告しましたよ」と言われて、実際、5つ報告があったうちの4番目に入っていた。3番目くらいまでは覚えているのだけど、そこから漏れたところに大化けするコンテンツが隠れている。

『進撃の巨人』(累計2300万部突破のベストセラー漫画。別冊少年マガジン連載。ライトノベル化、アニメ化もされた)も、プロの漫画編集者はなかなか採用しない。ヘタウマだから。で、講談社の野間さん(野間省伸・講談社代表取締役社長)に「『進撃の巨人』を世に出した人を褒めてあげなきゃいけないね」と言ったら、そばにいた人が、「いや、角川さん、あれは最初、集英社に持ち込んで、断られてうちに来たんですよ」って言うんです。

そうだろうなと思いました。やっぱり最初から期待されていたわけではなかった。でも、拾った人は大したもんですよ。ハリウッド映画もそうですよね。大ヒットした作品は意外にB級だったりします。

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