アイドルは想像を絶する「サバイバー」だった 虐待、非行、女子少年院の日々を乗り越えて

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少年院で、ほかにもいくつかの資格を取得していた戦慄さんは、2016年に満期で退院した後、薬局で事務員として働き始めた。母親が決めてきた仕事だった。

しかし、数カ月で辞めてしまう。ある日、思い立ったのだ。アイドルになろうと。

当時、大手の芸能事務所ではなく、中小の事務所に所属して、あるいは個人レベルでライブなどを行う女の子たちが登場していた。彼女たちは「地下アイドル」と呼ばれた。戦慄さんが少年院に入ったころには存在しなかった言葉で、退院後に、地下アイドルの存在を知った戦慄さんは、驚いたという。同時に、こう思った。「これなら私もできる!」。

「私が知ってるアイドルはAKB(AKB48)とかモー娘(モーニング娘。)で、自分がなれるとは、思ったこともありませんでした。でも、私が少年院に入っている間に、一気に地下アイドルという言葉が浸透して、なかにはおゆうぎ会レベルのアイドルもいました。私はダンスがすごく好きだったので、ダンスを生かせば、私もアイドルになれるかもしれないと思ったんです」

とはいえ、何かツテがあったわけではない。さてどうしようかな、と思っていた矢先に、ツイッターを通して、芸能関係者と名乗る人物から連絡があった。なんと、戦慄さんが妹とダンスしている動画をツイッターにアップしたところ、それを見た人がその関係者に連絡。その関係者は、戦慄さんをイベントに誘った。

「かわいいし、ダンスもうまいから、うちのイベントに出てみませんか。歌はもう、どんなふうでもいいので」

歌はどんなふうでもいい、という言葉にはリアリティがある。その誘いに乗った戦慄さんは、イベントに出演。すると、あっという間にファンがつき、ツイッターのフォロワーがどんどん増えていった。

「浮いてなんぼ」の世界

この舞台の前後、アイドルらしくキラキラしたキャラを演じていた戦慄さんは、すぐに考えを改めた。

「私は地上のアイドルを目指しているわけじゃない。だったら、自分のやりたいことをしたいし、私が素を見せてもついてきてくれるファンがいればいいや」

ぶりっ子をやめた。気持ち悪いと思うファンには、中指を突き立てた。ツイッターでも、歯に衣着せぬ投稿をするようになった。そのせいで、何度か「炎上」した。そのアイドルらしくない振る舞いが話題を呼び、戦慄さんいわく、”モノ好き”のファンが増えていった。

その分、地下アイドルの女の子たちのなかでは浮いた存在になり、ドロドロした地下アイドルの闇にも触れた。しかし、戦慄さんにとっては、たいしたことではなかった。

「どんどん浮け浮け、っていうか、浮いてなんぼですよね」

イメージチェンジ、というより、素の自分を出すようになってしばらくすると、別の芸能関係者から声をかけられた。その人は「のーぷらん。」という、地下アイドル業界では名を知られているグループの運営に携わっている人物で、戦慄さんはあれよあれよという間にその一員に加わった。アイドルになるのはハードルが高そうな印象がありますが、というと、戦慄さんはうんうん、とうなずきながらこう言った。

「それくらい身近なものになってたんですよ、アイドルが。それくらい!」

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