20~30代は、カメラの設計技術者として、開発の真っただ中にいました。といっても担当していたのは、花形の高級機種ではなく、既存製品の改良型の設計であったり、量販機種の設計でした。手掛けたものの一つに、距離計連動カメラの改良型の設計があります。これには苦い思い出があります。
距離計連動カメラとは、距離計がカメラボティに内蔵されており、距離計でピントを合わせることにより、レンズのピントも連動して合うものです。一眼レフに比べると焦点の調節が確実という利点もありましたが、ファインダーの像と実際の撮影範囲にはズレがあるなどのデメリットもありました。現に距離計連動カメラは1950年代まではカメラの主流でしたが、60年代になるとより自動化の進んだ優れた一眼レフが登場して時代遅れになっていました。
筋の悪い技術はいくら無理をしてもダメ
距離計連動カメラにはライカM3という名機があって、ニコンはそれを超えるカメラの開発に固執しました。50年代にはニコン製の距離計連動がヒットした経緯もあります。ですから会社として、距離計連動タイプを完全に捨て切ることはできませんでした。
私も担当している以上、何とかいいものを作りたいという思いがありました。しかし、技術の趨勢はすでに一眼レフにあった。レンズ交換式なら一眼レフのほうがずっと便利です。試作機はできたものの、日の目を見ることはありませんでした。
その後に担当した、レンズシャッター一眼レフも、ぱっとしない製品でした。レンズの真ん中にシャッターがあるので、一眼レフなのにレンズ交換ができない。機構上、1回の撮影ごとにレンズシャッターが2回開閉しなければならない。ところがレンズシャッターそのものが繊細な機構なので、よく壊れる。仕事ですから一生懸命やりましたが、私が設計した機種が最後となりました。
設計とは必要な機能を合理的な方法で実現するということです。が、方法の選択を誤ると厳しい結果が待ち受けています。合理性のないものは淘汰されていくということです。筋の悪い技術はいくら無理をしてもダメです。
こうした体験があったので、私は仕事をするうえで合理性をより重んじるようになりました。部下を持つ立場になっても、不合理なことはやらない、やらせないようにしました。それが貫徹できたかは自信がありませんが、技術者としてつねに心掛けてきました。
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