日本のラーメンはしょっぱすぎた
高橋氏が初めてシンガポールを訪れたのは1993年。1996年までの3年間、前職で務めていた某電機メーカーの駐在員として働いたことがきっかけだった。
「あの頃は海外、特に東南アジアなんて、まだ身近ではなかったでしょう。“スコールで蛇が流れてくる”“街中をトラが歩いている”などと揶揄されていたほどです。今ほど日本人がシンガポールに興味を持つなんてことはありえなかったし、こんなに発展するとは誰も思っていなかった。日本食のお店だってあまりなかったんですから」と、当時の雰囲気を語る。
飲食業とは縁もゆかりもなかった高橋氏が、当地で飲食店のフランチャイジーを始めたきっかけは、駐在からの帰任だった。
まもなく会社から日本への帰任命令が出るかという頃に、高島屋やパルコなど日系の大手百貨店がシンガポールに進出し、成長著しい東南アジア市場の開拓に乗り出した。さらに同時期、「味千ラーメン」が香港にフランチャイズで初出店し、オープン時に行列ができている現場に遭遇。「脱サラ=ラーメン屋なんて安直だと思われるのは嫌だったんですけどね」(高橋氏)と、奮起した当時を振り返って笑う。
味千ラーメンの1店舗目をシンガポールのブギスにオープンしたのが1997年。しかし、初めの3年間は思うようにお客がつかなかったのだという。
シンガポールでは、ラーメンが輸入されるまで、麺がふにゃっと柔らかい「スープ麺」が主流だった。さらにそのスープ麺が大体2シンガポールドル(日本円で約160円程度)で食べられたのに対し、味千ラーメンは8〜9ドルと価格は4倍以上。「うちのスープは具をたくさん入れて、10時間も煮込んでいるんだ」と伝えてみても、その違いは「ラーメン」というまったく新しい食べ物を前に躊躇している人を乗り換えさせるには至らなかった。「シンガポリアンに、初めの一歩を踏み出させるのが大変でした」(高橋氏)
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