それでも、「できるだけ日本の食文化、本来の味を変えないで持っていきたい」と、考えていた高橋氏だったが、そんな同氏が「これはさすがに受け入れられないんだな」と譲歩したのが、「塩気」だった。「日本のラーメンはこちらではしょっぱすぎるのです。日本では、食材を塩漬けにして冬に備蓄しておく文化が古くからあり、それで塩気が好きになった。しかし、その文化や味の好みを押し付けても無理だということがわかった」(高橋氏)のだという。
そこでスープに入れる塩の量を調整することに。しかし、特に苦労したのが「味噌ラーメン」。味噌ラーメンに入れる塩の量は、イコール味の濃さ。つまり、塩を少なくすると、塩気と同時に味気も引いてしまう。そこで、日本人とシンガポリアンのスタッフを集めてブラインドテストを重ね、ようやくちょうどよい量に落ち着いたそうだ。シンガポリアンはもちろん、シンガポールに住む日本人も相手にしないといけないわけだから、国籍とそれぞれの文化、味の好みを超えたメニュー開発のための試食には、特に気をつけているという。
意外とおいしい「ザリガニラーメン」は人気メニュー
味千ラーメンのメニューを見て、日本のラーメン屋との違いを感じるのが、「トッピング」だ。
「今では20種類ほどのバリエーションに落ち着いていますが、ここに行き着くまでには新しいメニューが出ては消え、出ては消えを繰り返してきました。今でも継続しています。それを繰り返す中で、“ウケる傾向”が見えてきました」(高橋氏)。
日本の味千ラーメンはバリエーションが4〜5種類ぐらいしかない。しかしシンガポールでは、バリエーションは多く、そして豪華なほうがいい。日本人にとっての「ラーメン」といえば、“背脂を使ったスープにこだわり”“チャーシューは1枚”、そんなシンプルさをイメージする方も多いだろう。しかし、こちらは麺の上にいろいろな具材を載せて豪華に見せる。それが、味の好みが分かれるシンガポリアンたちの入り口を、できるだけ広く用意することにつながり、そうやって同社は成長してきたという。
数あるトッピングの中でも日本人が驚きそうなのが「クレイフィッシュ」、ザリガニが乗ったラーメンだ。シンガポールでは日本におけるロブスターのような少しぜいたくな食材とされており、ボイルすればぷりっとした食感。味もロブスターそのもので、あんのようにとろっとしたシンガポール名物・チリクラブのソースと相性がよい。見た目の第一印象は強烈だが、味はおいしい。どの店舗でも上位3位以内に入る人気メニューで、元フジテレビアナウンサーで、現在、シンガポールに住んでいる中野美奈子さんも番組のロケで食したそうだ。
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