日本人の「心イズム」とは何か? 山折哲雄×上田紀行(その2)

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社会の「心理学化」と「経済学化」が2大悪者

上田:社会の心理学化というのは、もうこの20~30年くらい大きな問題になっていますね。社会の心理学化と、社会の経済学化の2つ。こんなこと言っちゃいけないですが、ある種、教養が平板化している2大悪者でもある。

上田紀行(うえだ・のりゆき)
東京工業大学リベラルアーツセンター教授

文化人類学者、医学博士。1958年、東京都に生まれる。東京大学大学院文化人類学専攻博士課程修了。愛媛大学助教授を経て、東京工業大学大学院准教授(社会理工学研究科価値システム専攻)。2012年2月より現職。『生きる意味』『かけがえのない人間』など著書多数。

心理学が人間をロボットのように見て、心は周囲と遮断され、あたかもそこに孤立してあるかのように扱う。心理学者が何かいろいろな質問をして、「この人の心の状態はこうである。したがって、こういうふうに悩みを解決して、ストレスにも対処し、ベストな状態に調整して、ちゃんと世の中で戦えるようにしましょう」みたいな感じ。

そういうふうに扱われてしまっている心と、本当にわれわれの中で形にならないような形で保持している心との乖離が、そうとう進んでいる気がしてならない。たとえば学校や職場でも、そういう形にならないような心というものをなるべく見せずに、成形された心をバーンと見せていくということがある。

某大企業に勤めている私の知り合いが、「成果主義が導入された途端に、会社の雰囲気が非常に明るくなった」と言うんです。

山折:ほう?

上田:なぜかというと、昔は取引先の人に「書類が間違っている!」と怒られて落ち込むヤツがいると、同僚が「オレも週末、出社するから手伝ってやるよ」と慰めて、必死にやり直したりした。職場の至るところで、怒られたり嘆き悲しんだりという光景が見られたんですが、成果主義になってから、自分の失敗を誰にも語らなくなって、代わりに「今日は1億の契約が取れちゃってさー!」と、ニコニコ笑いながら自分の成果を吹聴する人間ばっかりになった。だから職場の雰囲気が明るくなったと。

それで、私の知り合いはその職場にいると、吐き気がするようなってしまった。しかし、成形された立派な心をバーンと押し出していかなければならない。私は心というのは嘆いたり悲しんだりうめいたりするのが自然だと思う。

山折:そうそう。

上田:お能を見ても、妖怪になって夜な夜な旅人を襲うような化け物が出てくる。その心の内を旅の僧が聞いてあげる。聞いてあげることによって、天上に昇っていく。そういうのが心であって、つねにピンシャンしているものではない。

にもかかわらず、成形してベストな状態に調整すれば、誰に見せても恥ずかしくないような心になれると考える。その人生観の浅さはいかばかりか(笑)。

ユング的に言えば、それをやればやるほど影の部分が増大していって、いろいろな問題が起きてくる。人間の体を痛めつけるという意味でも起きてくるし、社会的にも闇が広がっていく。

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