日産、ノートe-POWER好調に潜む喜べない事情 売れている背景には消極的な要因も
e-POWERではECO/Sモードを選んだ時の運転感覚も話題になった。ECO/Sモードで走行中にアクセルペダルを戻すと、即座に回生(減速力を利用して駆動用モーターが発電すること)が行われ、駆動用電池に充電を開始する。
そのために充電効率が高まって燃費がさらに良くなり、アクセルペダルを戻すと強い減速力が発生するから、アクセル操作だけで速度を自由に調節することも可能だ。加減速が穏やかな市街地走行では、ブレーキペダルを踏まず、アクセルの調節だけで停車までカバーできてしまう(停車したら安全のためにブレーキペダルは必ず踏む)。
このようにノートe-POWERは、優れた燃費、静かで滑らかな走り、さらにアクセル操作だけで速度を調節できる独特の運転感覚など、さまざまな魅力を身に付けて人気を高めた。メカニズムは高コストだが、価格はライバルのトヨタ「アクア」、ホンダ「フィットハイブリッド」に合わせて割安にしたことも好調の秘訣だ。
宣伝の仕方が斬新
(2)掟破りのCM効果
ノートe-POWERは、TVのCMも含めて宣伝の仕方が斬新だった。キャッチコピーは「電気自動車のまったく新しいカタチ」。e-POWERのメカニズムはシリーズ方式のハイブリッドだから、ホンダ「オデッセイ」や「ステップワゴン」の「i-MMD」などと基本的に同じながら、「電気自動車」という言葉を使った。これに矢沢永吉氏の「やっちゃえ日産」「攻めるね日産」などが加わると、まったく新しい最先端技術に思えてくる。巧みなイメージ戦略だ。
ただしユーザーの誤解を招く表現でもある。一般の認識では、電気自動車は日産「リーフ」やテスラ「モデルS」などのようにモーターと大容量の駆動用電池を搭載して、充電された電気で走るクルマのことだ。充電機能を持たないエンジンとモーターを併用するメカニズムは、一般的にすべてハイブリッドと呼ばれる。
新しいセレナe-POWERのCMは、さらにエスカレートして「電気自動車の新しいカタチを充電いらずで」という。ハイブリッドなら「充電いらず」は当然だ。また「充電いらずの電気自動車」は矛盾がある。
加えてこのCMでは「さらに自動運転も」と続ける。ここでいう自動運転とは、車間距離を自動制御できるクルーズコントロールと、操舵の支援機能を組み合わせたプロパイロットのことだ。これはクルーズコントロールを進化させた「運転支援技術」だが、CMでは「自動運転」という。日産は衝突被害軽減ブレーキも「自動ブレーキ」と宣伝している。
「自動」とは「ユーザーが何もしなくていい」という不作為の意味だから、運転支援を「自動運転」、衝突被害軽減ブレーキを「自動ブレーキ」と表現したのでは、ユーザーの過信を招く危険なCMになってしまう。クルマに関する知識や認識は、ひとつ間違うと交通事故を誘発するから、もっとデリケートに取り組むべきだ。ノートe-POWERの好調な売れ行きは、こういったCM表現にも支えられている。
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