静岡発で快進撃するオーダースーツ店の正体 縮む市場に立ち向かう「着心地」「お手頃」

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採寸から納品まで1カ月ほどかかり、すぐにスーツが欲しい場合は向かない。だが、生地も無地以外にピンストライプなども選べ、シルエットも細身やゆったりめなど希望の形をオーダーできる。店側は、顧客の細かい注文に対応することで信頼を高めてきた。

百貨店の手法を反面教師とした

もともと山梨県身延町出身の千須和氏は、神戸市が本店の「テーラー」に就職して紳士服業界に入り、東京・銀座の店で働いた。「若い頃は同僚よりも技術が劣る、落ちこぼれでした」と話すが、同業界で裁断・仕立て・縫製の作業を学び転職。百貨店内のテナント店長、ダイエーの紳士服子会社「ロベルト」の地区長などを経て、1992年に山梨県甲府市で起業。長年培った人脈や流通ルートを生かし、独自手法のオーダースーツを開発した。

生地を説明する千須和社長(筆者撮影)

「当初、1着=1万9000円にしたのですが売れませんでした。どうしようかと思案した時、ロベルト在職時に行った“バンドルセール”(バンドル=束で売ること)を思い出した。その手法を応用して、2着=3万8000円にしたところ売れ始めたのです」

生地を広げて陳列し、明朗価格にするのは、百貨店の手法を反面教師にしたという。

「スタイリッシュでないのは承知しています。でもお客さんは生地の手触りや全体のイメージを見たい。価格も安心して買いたい。百貨店方式では訴求が弱いと感じたのです」

スーツの生地(アーク提供)

事業は堅実だったが、長く甲府と長野の2店だけだった。転機は2010年に清水エスパルスから「選手やスタッフが移動時に着る公式スーツを製作してほしい」と依頼が来たことだ。一度は断ったが、引き受けることを決意。千須和氏自身も静岡市に移住した。

「山梨の人間は活路を求めて静岡に行くことも多い。私もそうでした。エスパルスの依頼は、昔からヴァンフォーレ甲府(VF甲府)の経営幹部と知り合いだったのもあります」

現在、VF甲府の公式スーツは、同店からのれん分けした「アーク甲府」が担当する。

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