正装が基本で、場内では走る人もいなければ、場所取りをする人も皆無。レースのヤマですら、座ったまま観戦する人も多かった。一流ビジネスマン同様、品のある振る舞いに終始するのが、ヨーロッパの貴族流なのである。そんな中、すべてではないものの、日本のテレビ関係者は目立ちすぎ。行列をつくって大勢で歩くものだから、「雰囲気を壊す」として、まゆをひそめていた人も多かった。
凱旋門賞は、世界中のホースマンが目標とする競走馬の世界一決定戦だ。今年で92回目。日本馬は、1969年に初めてこのレースに挑戦しているが、残念ながら今年も勝てなかった。「東洋経済オンライン」のインタビューで、「優勝の関係者のみが乗れる馬車に、自分の代わりとしてでも、父を乗せてあげたい」と語った池江調教師の夢はかなわなかった。ただ昨年に続き、今年も2着だったオルフェーヴルだけでなく、すべての敗者に対して、現地の人々は温かい拍手を送っていた。優勝馬は地元フランスの牝馬トレヴだったのだから、ということを差し引いても、ヤジなどはまったくない。これは本当に素晴らしいことだ。
負けても、次を見据える池江師の素晴らしさ
今回、池江師は確かに2着に敗れた。しかも、着差だけを見れば優勝馬と5馬身差。完敗だ。だが、その結果だけを見るべきではない。
昨年のオルフェーヴルの敗戦は、斜行するクセが、まさにゴール直前で出てしまったことによるものだった。池江師は、気性が激しいオルフェーヴルにあわせ、落馬などのリスクを回避するためもあり、まっすぐ走らせやすい直線コースを中心にオルフェーヴルのトレーニングを組んでいた。だが、結果的に、それは失敗だった。
今年は、だだっ広い、不測の事態も起こりうる、草原のような芝周回コースで、何度も「攻め」のトレーニングをオルフェーヴルに課した。昨年の苦い経験を活かして、今年は日本でも出走するレースを減らし、凱旋門賞に焦点を絞って調整をしてきた。ジョッキーとの息も合うように、スミヨン騎手とのコミュニケーションも綿密に行なった。その結果、オルフェーヴルは、クセがあることなどみじんも感じさせることなく、まっすぐに走った。昨年と今年、同じ負けは負けでも、そのプロセスに明らかな進化があったことを、見逃してはいけないはずだ。
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