小中学校の「教育方針」が今春から変わる理由

文科省が見据える「新しい時代」の中身とは?

そして最終段階とされるのが「自己変容型知性」だ。これが最も成熟した知性とされる。前段階同様、自分のイデオロギーや価値基準を持ちながら、それを客観的に見てその限界を検討し受け入れることができるという点が前段階と大きく異なる点である。あらゆるシステムや秩序、思想は不完全であると理解し、その限界を知り、矛盾や相反する考え方を受け入れ、対立を統合しながら1つの解を生み出していくのが最終段階なのである。

この「自己変容型知性」が、まさに「変わり続けられること」を体現した知性と言える。自分の価値観に固執せず、社会状況や「今」に目を向ける中で自己を変容していける段階である。

今日の社会では、情報社会化の中で知的労働が求められる比重が高まり、変化のスピードは上がり、イノベーションが求められ、経営者やフリーランスのみならず組織で働く人材にも第2段階の知性・自己主導型知性に達することが求められている。そして、リーダー層の人材は今後、最終段階の自己変容型知性への移行が求められていくとロバート・キーガン博士は述べている。

しかし、冒頭で述べたこれからの未来の社会を前提にすれば、さらに多くの人にこの自己変容型知性の段階に達することが求められるのではないだろうか。

「正解のない時代」とよく言うが、それはこれまでの「正解」に限界が来たということを意味している。AIの発展やそれに伴う雇用の変化、超長寿命化などを迎え、すさまじい変化の中で「正解」が更新され続ける新たな時代においては、リーダーのみならず個人が社会秩序、思想は不完全であると理解し、その限界を知り、矛盾や相反する考え方を受け入れ、対立を統合しながら1つの解を生み出していく必要があるのだ。

ただ、現状では第2段階の「自己主導型知性」に到達している人でさえ少数派という。キーガン氏は著書の中で、米国の大卒中流層の専門職を中心にした被験者に対して行われた数百人規模の調査で、6割近くが自己主導型知性の段階にも達していないと記している。

日本に目を向けると…

では、日本人はどうだろうか。新卒一括採用が一般的で、入社する社員の多くが総合職として雇用されてきた日本の企業においては、新入社員は入社後どんな職種につくか定められないことがほとんどだ。入社後も企業からの辞令があればそれに従う。例えば営業職として入社した社員が総務や人事といった職種になることは日常茶飯事であろう。

つまり、新たな役割を命じられたらそれに従い、その役割を担いながら必要なスキルや働き方を身に着けていく。こう見ると、日本のサラリーマンは職種や自身に求められる役割という観点では自己を変容しながら社会人人生を生き抜いてきたとも言える。

しかし一方で、1つの会社の中で生き続けることを常としてきた日本の多くの社会人には、会社の目標が部署の目標やグループの目標としておりてきて、その目標に照らして合理的なのはどちらなのかという判断をすることはあっても、自分なりの価値基準、判断基準が必要となる場面や、自分自身のイデオロギーを自身に問うて判断をするといったことはほとんどなかったのではないだろうか。むしろそういったものを持つことを禁じられてきた、無価値なものとされてきたと言えるかもしれない。

さらに言えば、相容れない価値を目の前にして、決められた基準がない中で自分の価値観と他者の価値観を統合しながら新しい決断や判断を下すという場面や、それまでの価値観を捨て、新たな価値観を取り入れて前に進むような場面は、本当に本当に稀有だったのではないだろうか。その意味で、おそらく日本における「最終段階の知性」の持ち主は米国よりも圧倒的に少ないことが予測できる。

これからの未来を考えたとき、未来と言ってもそう遠くない未来、10年やそこら先の未来を生きる人材に求められるのは「変わり続けられること」であるのは明らかだ。政府は安易な働き方改革やピントのズレた金融政策にリソースを投下しているが、日本が新しい時代により豊かな社会を実現するためには、一人ひとりの「知性」の発達がまずもって必要となる。この後押しこそ国がすべきことなのではないだろうか。

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