小中学校の「教育方針」が今春から変わる理由 文科省が見据える「新しい時代」の中身とは?
「指数関数的発展」は「ある時点から爆発的に発展すること」を意味し、主にテクノロジーの進化について表現する際に用いられる。現在でもIT技術は日進月歩だが、ある時点でAIが自己学習能力を持ち、人工知能の自己再生産ができるようになると、AI技術が「指数関数的発展」を遂げ、これまでの世界とは非連続な世界に突入すると言われる。この時点がいわゆる「シンギュラリティ」で、2045年頃到達するという予測もある。
そんな世界の中で、子どもたちに「今の常識」を何の配慮もなく植え付けることは危険だろう。別の「新しい常識」があらわれて世界を席巻することもまたないと思われる。もはや「常識は更新され続ける」ということを伝えるほかないのだ。
この指数関数的発展によって起こることの1つが、「AIによる仕事の代替」だ。2014年、オックスフォード大学のマイケル・A・オズボーン氏は自身の論文「雇用の未来」の中でAIやロボット技術の進化によって「今後10~20年で、アメリカのすべての雇用者の約47%の仕事が自動化されるリスクが高い」と発表している。日本でも2015年、野村総合研究所が「10~20年後に、日本の労働人口の約49%が就いている職業において、それらに代替することが可能との推計結果が得られている」と発表した。
また、ダボス会議(世界経済フォーラム)創始者のクラウス・シュワブは『第四次産業革命――ダボス会議が予測する未来』(2016年、日本経済新聞出版社)において、AI、ロボットの活用が進む第四次産業革命を経て工場の無人化が進み、製造業が雇用の受け皿としての機能を失うことを懸念している。そして、それによって新しい『価値』を生み出せる人材に富が集中し格差が拡大することを予言しているのだ。
教員や学芸員、美容師といった創造性や協調性が必要な業務や非定型な業務など、AIによる代替可能性が低いとされている仕事はある。また、新たに生まれてくる仕事ももちろんあるだろう。ただ、現代の子どもはこうした前提で将来を描くことが求められているのだ。
「教育→仕事→引退」モデルの崩壊
最後に、「人生のマルチステージ化」がある。英ロンドン・ビジネススクール教授のリンダ・グラットン氏らが著した『LIFE SHIFT』(東洋経済新報社)が2016年に日本で刊行された。
その中で、いまの50歳未満の日本人が100年以上生きる時代となり、「教育→仕事→引退」の順に同世代が一斉行進する「3ステージの人生」から、生涯で2つ、3つのキャリアを持つ「マルチステージの人生」が一般的になる、とされている。終身雇用が多くの会社にとっていまだに一般的である日本にとって、この「人生のマルチステージ化」は大きな衝撃とともに広がっていった。
政府が「人づくり革命」を掲げてリカレント教育(生涯にわたって教育と労働や余暇など交互に行う教育システム)を推進し、大人がキャリアプランの再考を迫られる中で、より注目されるのはこうした「未来」をど真ん中で生きていく子どもたちに対する教育だ。
以上の社会予測を踏まえ、今の日本の学校教育を見てみるとどうだろうか。より速く問題を解くこと、より多く言葉を暗記することが評価されるような受験競争、既存の価値観や正解を疑うことなく、その期待に答えることが最善とされてきたこれまでの教育は通用しなくなるだろう。今回の「学習指導要領」の改訂は、そうした危機感の表れといえる。
教育改革は10年、30年、あるいはさらに長い期間の計になるが、そのスタート地点に今いるのだ。しかし、彼らにどんな教育を届けていけばよいのか、誰も明確な応えを持ち合わせていないのが現状だ。
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