「堺ビッグボーイズでも、子どもたちには、なぜできない、とか、押し付けの指導はしません。親御さんにも、“こういう方針でやるので、何か言いたくなってもぐっとこらえてください”と言っています。
そして、失敗したあと、彼らがどうチャレンジしているのか、その過程でどう声をかければいいのかを一緒に考えてもらっています。ぐっと我慢するだけではなく、子どもをちゃんと見て、背中を押すべきときは押す、これが大切なんです。できたときにはそれを見逃さずに、このチャレンジを続けよう、と、励ます。タイミング良い声かけも必要です」
阪長が筒香嘉智に見せたかったのは、ドミニカ共和国のレベルの高い野球だけではない。試合の合間に、少年野球や現役メジャーリーガーの練習に触れる機会を用意した。そこで筒香は日本で自分が経験した野球とはまったく異質の野球に触れて、意識が変わったのだ。まさに「百聞は一見に如かず」だ。
142人の野球少年は、ほとんど傷ついていなかった
阪長は筒香だけでなく、指導者や野球関係者をドミニカ共和国に連れていき、現地のウィンターリーグから少年野球まで、野球視察をしている。今年初めにも視察ツアーを行ったが、この一団にはスポーツドクターの古島弘三も参加していた。古島は群馬県の慶友整形外科病院スポーツ医学センター長。
日本のトミー・ジョン手術(側副靭帯再建術)の第一人者であり、群馬県の学童野球指導者に選手の肘障害に対する予防と対策について講演を続けている。今回、古島は少年野球の視察に加えて、ある目的をもっていた。
「ドミニカ共和国の野球少年のひじ、肩の状態を検査しようと思っていたんです。142人の子どもを検査しました。日本では2~8%の割合で見つかる外側障害である離断性骨軟骨炎(OCD)はゼロ%、日本の学童では半数以上経験している肘内側痛の既往は15%にみられただけです。本当に驚きました。しかも子どもの頃にまったく酷使をしていないから、成長期で負担がかからず、大人になって身長も大きく伸びるんですね。現地の指導の様子にも感銘を受けましたが、子どもたちは健康の面でも本当に守られているな、と実感しました」
阪長は全国を回って、指導者セミナーを行っている。そこではドミニカ共和国の野球を紹介しつつ、それと比較して日本の指導者(野球以外の部活も含む)に、現状について気づかせている。
今年に入って大阪で行われたセミナーでは、阪長は集まった指導者たちに1つの問いかけをした。
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