カクヤスを「酒販の王者」にした3代目の手腕

23区をカバーする「1.2km商圏」戦略で席巻

他社がまねをできない宅配として編み出したのが、「23区内どこでも」「2時間以内で」「1本から」「無料で」配送する、というサービスだった。わかりやすさにもこだわり、「我が家はエリア内なのか、いくら頼めばタダなのかなど、お客さまにとっての“バリア”はすべて取り除いた」(佐藤社長)。

早くから物流に着目した佐藤社長。ユーザー目線を持ち、数字にも強い(写真:筆者撮影)

実現するためにはどうすればいいか。再び地図を広げた。各店舗の配達圏を半径1.2キロメートルとすると、東京23区の面積をカバーするには137店舗が必要になる。一般企業のオフィスや住宅のない臨海部や皇居などを除けば必要なのは110店舗で、既存店舗から差し引けば80店舗ほど。規制緩和が始まる2003年までに23区内110店舗を達成する構想を打ち上げた。

しかし、計画どおりに事は運ばなかった。「一番つらかった」と佐藤社長が語るのは、日本経済がようやくバブル経済崩壊後の平成不況を脱却しようとしていた2003年。店舗が100を超えたが、68店舗が赤字続きの状態となっていたのだ。「価格戦略の場合はすぐに売り上げにつながるが、付加価値戦略はサービスを使ってもらわないと良さが理解されず、売り上げに結び付くのに時間がかかった」と、佐藤社長が振り返るように、出店間もない店舗は経営に苦しんでいた。

銀行にも新規融資を断られる厳しい状況になったが、「店がすべて完成してはじめて物流インフラが整う」という信念を貫いて計画を続行した。

「なんでも酒やカクヤス」という屋号には、「お客様の要望になんでもこたえたいという意味を込めている」(佐藤社長)

だが、当初の計画のまま店舗を増やしただけでは失敗に終わっていた可能性もあった。

「当初、店舗からの宅配は家庭のみが対象だったが、若手社員の何気ない一言で飲食店への営業を開始した」(佐藤社長)。すると、当日注文分を当日配達するというニーズと合致し、業務用の売り上げが急増した。3年間で宅配の売り上げが2倍になり、2006年ついに黒字に転換した。その後も拡大を続け、2011年には売上高が1000億円を超えた。

カクヤスは、業務向けビジネス、家庭向けビジネスを臨機応変に成長させてきた。小さな町の酒屋から始まり、バブル期は景気拡大に乗って業務向けを拡大。バブル崩壊後はディスカウントストア価格で一般家庭をターゲットとし、東京23区構想では、一般家庭向けとして構築した物流網によって両方を急成長させた。

現在、家庭向けと業務用の割合は3:7。今後も景気や業界環境の変化に応じて、荒波を乗り越えていく考えだ。

ドライバー不足という逆風

宅配需要の増加を背景にしたドライバー不足、2017年6月の酒税法改正に基づく酒類の安売り規制、縮小し続ける酒類市場、EC大手の酒販参入など酒販業界を取り巻く環境は厳しいが、カクヤスは次の一手を打ち続ける。

2017年8月には、東京・大田区に平和島流通センターを開設。卸売業者からの納品を1カ所に集め、全店舗に自社配荷することでコストを抑えることに成功した。「東京23区の酒市場全体におけるシェアは現状15パーセント。さらに増やす余地はある」(佐藤社長)と語るように、主要エリアの拠点や倉庫を増やし、東京の物流網を充実させる。また、カクヤスは現在、上場を目指している。

町の酒屋から一気に業界トップに上り詰めたカクヤス。その理由はカクヤスが業界環境を予測し、大胆なビジョンを描いてきたことにある。加えて、ユーザー目線でサービスを作り出す「目利き」があったからではないだろうか。佐藤社長へのインタビューは、「居酒屋が22時ごろになると~」「配達スタッフがお届けの際に~」など、現場の映像が目に浮かぶような具体的なエピソードに富んでいた。当社の姿勢は、業界を広く俯瞰する目とともに、現場目線で顧客のニーズにこたえつづける姿勢の大切さを教えてくれる。

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