そういうとき、隆太さんはビシッと決める。「あなたでいい、のではなくて、あなたがいい。僕は変わり者が好きなんだ」と断言。変わり者を自覚している康子さんはその言葉で納得した。44歳になっていた。
「当時、父はすでに他界していました。でも、やたらにお見合いをさせようとしていた頃、私を説得するために『失敗してもいいから一度ぐらい結婚してみたらどうか』と言っていたんです。そういう考え方もあるのかな、と思いました。あの言葉のおかげで彼のプロポーズを受けることができたのかもしれません。あんな父でも1つだけいいことをしました(笑)」
康子さんのすることにはすべて反対してきた母親は健在だ。どうするべきか。康子さんは地元の知り合いに説得を依頼。偏屈な母親が唯一、信頼している人だ。そして、「私はどうこう言いません」との言質を取ることに成功。社会経験の長い康子さんの根回し力が功を奏した瞬間である。
結婚して丸3年が経過した。「まったく憧れなかった結婚生活」を康子さんはいまどのように評価しているのだろうか。
「結婚して一番良かったことは経済的安定です。年収は夫のほうが多いので世帯収入は1000万円を超えます。でも、水道光熱費や食費は1人暮らしのときとあまり変わりません。おかげで毎月貯金ができるようになったし、30年かけて返す予定だったマンションのローンも5年後には前倒しで完済できそうです」
スポーツや習い事が好きな康子さんは、もうちょっと自分の時間が欲しいと思うことがある。「夫がいるから精神的に安定した」と感じることは今のところないと正直に明かす。
「太っている彼のイビキがうるさかったり、料理をするのが面倒くさいと思ったりすることもあります。でも、彼は結婚して明らかに嬉しそうなので、そのことは私も嬉しいです。お風呂上がりにハンドクリームを塗ってあげるだけで喜んだり……。洗濯と食器洗いは彼がやってくれます」
冷たい家庭像を溶かすには…
康子さん自身が隆太さんとの暮らしに本当の安らぎを覚えるのはもう少し先なのかもしれない。親に植え付けられた冷たい家庭像を溶かして修正するには時間と愛情が必要なのだ。
「30代を1人で過ごしたことは良かったと思います。家は寛げるところなんだと1人暮らしをして実感できたからです。もっと若い頃に結婚していたら、世間体を気にして『とりあえずこうしておこう』を優先し、結果的にはうまくいかなかったでしょう。子どもができない年齢で結婚したことも私にとっては良かったです」
筆者は30代40代の「晩婚さん予備軍」男女を取材することも少なくない。自分自身の結婚願望ではなく、「そろそろ結婚して子どもを作らなくちゃ落ちこぼれる」という焦燥感に駆られている人をよく見かける。筆者も30歳過ぎで同じような焦りを感じて一度目の結婚をして失敗したので他人事ではない。
だからこそ、康子さんと隆太さんのように40代半ば以降での結婚には自由があると思う。焦る必要がなくなるからだ。親から自立さえしていれば1人でも生きていける。いつ結婚してもいいし、しなくても構わない。自分の中に潜む「世間体」から少し距離を置けたとき、本当の意味で心地よいパートナーが見つかるのかもしれない。
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