しかしこのアノマリーは、2001年9月11日に発生した「同時多発テロ事件」以降、もはや当てはまらないということをマーケットの猛者たちは知っている。つまり米国が戦争、特にイスラム世界との間で紛争に巻き込まれると国内でイスラム・テロが発生してしまう危険性が生まれたのである。そしてこの時、米ドルは「上がる」どころか「崩落」する。簡単にいえば、今や「有事のドル売り」が正しい選択肢だというわけなのである。
そしてこのことを今年(2013年)8月22日の夕方に起きた米欧の越境する投資主体たちの行動に当てはめると、こう考えることができる:
●「8月21日に『化学兵器』で市民が大量虐殺された」と伝えられたにもかかわらず、米欧の越境する投資主体たちは大量かつ比較的長期の「ドル買い」を入れた
●「有事のドル売り」であるなら、仮にオバマ政権がシリアに開戦するならば本来、彼らは「大量かつ長期のドル売り」をしていたはずである。しかしそうはならなかった
●なぜならば米欧の越境する投資主体たちは結果として今回、米国が開戦には踏み切らないと判断していたからである
●事実、なぜかその後、米国は「軍事介入」をせず、現在に至っており、「ドル買い」は少なくとも短期的には正しい選択であったことが明らかとなった
このように事実が展開したことは「単なる偶然」と思ってしまってはならない。なぜならば、米欧の越境する投資主体たちの社内には、わが国の機関投資家たちにおいてとは異なり、それぞれの国のインテリジェンス機関のオフィサー(職員)たちが席を持っているからである。彼らは国家として収集したインテリジェンス情報を越境する投資主体に対して提供するのを職務にしている。その結果、越境する投資主体のファンド・マネジャーたちは「これから政府が本当のところ何をするのか」を知りながら投資を行っているというわけなのだ。
今回の場合も、判明した事実をつなげていくと、正にそうした「マーケットを動かす本当の仕組み」が露呈した典型的な例であったと言うことが出来る。なぜならば、8月31日のオバマ「開戦」演説の前後において、イスラエル系の情報ルートを中心に「オバマ大統領はシリアのアサド政権に対して勇ましいことを表向きは語っているが、“落としどころ”を探して実は極秘提案を行っている」という情報が流れ始めていたからである。そして事実、それは「ロシアからの提案」という形になって露呈し、米国もなぜかそれに素直に従い、アサド政権は軍事介入によって潰されるどころか、堂々と「延命」することになったというわけなのである。
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