不漁とは無縁!本格始動する魚の「陸上養殖」 魚は捕る時代から陸上で「作る」時代へ

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バナメイエビとは世界中の水温20度以上の海域に生息しているエビだが、同社では新潟県妙高市の室内養殖場でバナメイエビを育てている。養殖が始まったのは2007年。豪雪地帯、妙高市にちなんで「妙高ゆきエビ」と名づけられ、今では特産品の1つとなった。

「妙高ゆきエビ」。今では妙高市の特産品の1つだ(写真:IMTエンジニアリング)

東南アジアで養殖されたバナメイエビには臭みがあるが、妙高ゆきエビには臭みがない。通常の養殖池では、池の底に残餌や死骸がヘドロ状になって蓄積され、その臭いがバナメイエビに付いてしまう。

妙高ゆきエビが養殖される水槽は逆三角形型で、残餌や死骸、フンなどが逆三角形の底面に集まり、それらを毎日外へ排出している。そうして水槽内を清潔に保つのだ。水槽には波を引き起こす造波装置もあり、強制的に波の中を泳がせるため、身が引き締まり、それがエビのプリプリの食感につながるのだという。

県や漁協も陸上養殖

富山県では名物「ますずし」に使用されるサクラマスの陸上養殖が行われている。サクラマスは川で生まれ、海で育ち、川に戻って産卵する。漁獲量が近年非常に少ないことから、実際にますずしに使用されるのは輸入のサケやマスであることがほとんど。

そこで、同県射水市の大門漁協と堀岡養殖漁協が県水産研究所と協力して2013年に陸上養殖の実験を開始し、2015年に養殖法を確立した。

養殖であっても、淡水で生まれて海水で育ち、そして淡水に戻るという順番を作らなければならない。そこで、県内の庄川で活動する大門漁協が成魚からの採卵と稚魚の育成を担い、海の近くで養殖を手掛ける堀岡養殖漁協が成魚の育成を担当する。同じ市内ではあるが、地域の違う2つの漁協がリレー方式で陸上養殖を行うわけだ。

陸上養殖には自然災害の影響が少ないほかに、育成の履歴が取りやすく安全に魚を育てられる、漁協の許可が不要で企業にとって参入しやすいなどのメリットがある。

ASC認証は水産物の輸出促進にもつながる(撮影:大澤 誠)

中でもポイントは安全な魚作りだ。世界ではWWF(世界自然保護基金)が定めるASCと呼ばれる養殖魚の認証制度があり、徐々に認知が高まっている。たとえば五輪の選手村ではASCを認定した魚でなければ提供できない。2016年のリオ五輪ではASCの認定を受けた水産物70万トン以上が選手や関係者にふるまわれた。

開催まであと3年を切った東京五輪でも条件は同じ。水産物の輸出促進においても、ASC認証は武器になる。設備や電気代のコストの高さなど克服すべき課題はあるが、今後も陸上養殖魚への注目が高まりそうだ。

田宮 寛之 経済ジャーナリスト、東洋経済新報社記者・編集委員

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たみや ひろゆき / Hiroyuki Tamiya

明治大学講師(学部間共通総合講座)、拓殖大学客員教授(商学部・政経学部)。東京都出身。明治大学経営学部卒業後、日経ラジオ社、米国ウィスコンシン州ワパン高校教員を経て1993年東洋経済新報社に入社。企業情報部や金融証券部、名古屋支社で記者として活動した後、『週刊東洋経済』編集部デスクに。2007年、株式雑誌『オール投資』編集長就任。2009年就職・採用・人事情報を配信する「東洋経済HRオンライン」を立ち上げ編集長となる。取材してきた業界は自動車、生保、損保、証券、食品、住宅、百貨店、スーパー、コンビニエンスストア、外食、化学など。2014年「就職四季報プラスワン」編集長を兼務。2016年から現職

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