不漁とは無縁!本格始動する魚の「陸上養殖」 魚は捕る時代から陸上で「作る」時代へ

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同社のシステムでは海から運んだ海水ではなく、水道水に海水成分の粉末を溶かした水を使用する。海水を海から運ぶと輸送費が大きな負担になるが、水道水ならばコストを抑制できる。「水道水でも魚の飼育にはまったく問題がない」(キッツ)。

陸上養殖を成功させるには、魚からの排泄物であるアンモニアをいかに無害化するかがポイントになる。同社ではアンモニアの多いときは電気を使用、少ないときは低コストのバクテリアを使用して水質を保つ。

マルハニチロのサクラマス陸上養殖場。同社はキッツと提携している(写真:マルハニチロ)

プラントでの作業は大半が自動化され、従業員は平日の9時~5時の勤務で済む。プラント内にはセンサーや監視カメラが設置され、水温、酸素濃度、pH値などを定期的に計測し、何かトラブルがあれば担当者にメールが届く。就業者の減少・高齢化に悩む日本の漁業にとって、飼育作業の負担減は陸上養殖の大きなメリットの1つだ。

陸上養殖の技術をとりあえず確立したため、長野県のプラントは2017年に閉鎖。現在はマルハニチロの「サクラマス陸上養殖プロジェクト」に参画し、技術のレベルアップに取り込む。キッツは魚の養殖販売ではなく、陸上養殖システムの販売を目指している。

工業団地でキャビアを生産

世界三大珍味の1つ、キャビア。それを産むのが世界的希少魚種のチョウザメで、魚肉も美味で人気がある。そのチョウザメの陸上養殖を手掛けるのが、こちらもバブルメーカーのフジキン(大阪府大阪市)だ。

育成したオス魚を食肉用に外食業者へ出荷し、メスはキャビア採取用となる。キャビアというと缶詰や瓶詰を連想する人が多いだろうが、同社では卵を持ったメスを魚ごと出荷している。出荷先で魚体からキャビアを取り出したほうが鮮度が保たれるからだ。

同社の養殖事業への参入は1989年と古い。バルブ生産で培った水の流れを制御する技術を生かしてチョウザメの養殖事業を開始。1992年に民間企業としては世界で初めて人工ふ化に成功、1998年にはこれも世界で初めて水槽での完全養殖に成功した。従来のチョウザメを超えたという意味で、この養殖チョウザメのブランド名を「超チョウザメ」とした。

同社の養殖場は1985年に開催された“科学万博つくば85”の会場跡地に建設された工業団地内にある。現在ではチョウザメ1万匹を飼育する体制を作っている。

日本で初めてバナメイエビの養殖に成功したのがIMTエンジニアリング(東京都新宿区)。同社は国内唯一の屋内型エビ生産システムを国内外に普及するために設立されたエンジニアリング会社だ。

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