ウクライナ紛争には「性暴力」が蔓延している 捕虜や民間人を屈服させるためレイプを奨励

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親ロ派の支配地域では住民は武装勢力の横暴に逆らえず、性暴力の取り締まりなど望めない。一方、ウクライナ政府の支配地域でも性暴力事件で警察が捜査に乗り出すことは期待できず、せいぜい形式的な捜査が行われる程度だ。ウクライナ政府は兵士が犯した罪を不問に付しているとの批判も聞かれる。

拘留施設での性暴力がパターン化

ウクライナ東部に派遣された国連の人権監視団が今年発表した報告書は、捕虜を辱め、拷問して自白を引き出すために「拘留施設ではパターン化された性暴力が行われている」と指摘する。

尋問官や看守が捕虜をレイプしたり、性器に電気ショックを与えたりして、「家族も同じ目に遭わせるぞ」と脅す手口は、親ロ派ばかりか政府軍も使っている。親ロ派支配地域ではカネや家をゆすり取る手段としても性暴力が使われている。

リザエバはレイプを免れたとはいえ、夏に熱気の籠もる狭い地下室に監禁され、食料も水もわずかしか与えられず、1日1回バケツに排泄することしか許されなかった。男性の仲間たちは独房に入れられてからも性的暴行を受けたという。リザエバと仲間たちの地獄の日々は98日間続き、14年10月に捕虜交換でようやく解放された。

ただ、性暴力が組織的に行われているかどうかについては調査結果はまちまちだ。国連監視団はそうした証拠はないと報告しているが、組織的に行われているとの指摘もある。「(性暴力は)捕虜によく行われる慣行で、親ロ派は実効支配を固め、不服従の意思表示をつぶすために奨励していた」と、国連人道問題調整事務所のサイトに投稿された報告書「語られぬ苦痛」の共著者オレクサンドル・パブリチェンコは言う。

加害者は親ロ派だけではない。国連と国際人権擁護団体のアムネスティ・インターナショナル、ヒューマン・ライツ・ウォッチが集めた証言によると、ウクライナ保安局(SBU)と政府系民兵組織は、親ロ派の疑いがある人物を拉致し、ジュネーブ条約に違反して秘密の場所で拷問しているという。

例えば国連監視団によると16年春、迷彩服を着て覆面をした8人組が親ロ派の疑いがある男性を拘束、廃屋に連行し、裸にして金属の檻に縛り付けた。1人が棒を男の尿道に差し込み、別の1人が携帯電話でその模様を撮影。一味は男を殴って、撮影した動画をインターネット上で公開すると脅した。男は供述書に署名し、「罪」を認めて刑務所に送られた。

キエフの裁判所では今年4月、解散した政府系民兵組織の元メンバーらが、15年初めに東部のルガンスク地域で民間人に拷問と性的襲撃を行った罪で実刑判決を言い渡された。

しかし加害者が起訴されるケースは例外的だ。国連の記録によれば、16年末までにウクライナの軍検察が内戦関連の性暴力事件で捜査に乗り出したのは、わずか3件にすぎない。軍検察によると、3件とも証拠不十分のため立件は見送られたという。

リザエバは解放後の2年間、捕虜交換の調整役を務めてきた。「監禁されていた時期のことを思い出すと、今でも気が狂いそうになる」と、彼女は話す。「でも私には息子がいる。強くならなきゃ。神のご加護で助かったのだから、できるだけ多くの人を救うのが私の使命よ」。

(文:ジャック・ロシュ)

「ニューズウィーク日本版」ウェブ編集部

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