その端的な例が、日本人マイナーリーガーの激減だ。NPBは、MLBに1960年代から「野球留学」という形でNPB球団に籍を残したまま、選手をMLB傘下のマイナーリーグに派遣してきた。この制度は1997年限りで廃止されたが、以後も元NPB選手やアマチュア選手がメジャー昇格を目指してマイナーリーグに挑戦してきた。
そこからMLBに昇格した選手はマック鈴木や大家友和などごくわずかだが、日本人マイナーリーガーの総数は200人以上にのぼる。
数年前までつねに5~10人の日本人マイナーリーガーがプレーしていた。しかし2017年は元ロッテの中後悠平がアリゾナ・ダイヤモンドバックス傘下の3Aに在籍していたのみ。中後の来季の去就は未定だ。他に日米二重国籍でアメリカ育ちの加藤豪将がニューヨーク・ヤンキース傘下のA+(3Aより2つ下のリーグ)にいる。
イチロー、青木宣親がともにFAとなり、所属球団が決まっていない現在、来季、日本人野手の系譜が絶える可能性がある。それに加え、日本人マイナーリーガーも姿を消すおそれがあるのだ。
現在、MLBは、NPBのほんの一握りの優秀な投手を「ええとこ取り」しているだけである。他の選手にはほとんど関心を持っていない。「人材流出」どころか、日本人選手は足元を見られ、見切りをつけられつつあると言ってもいい。
ビジネスパートナーになれなかった日本野球
MLBが進化を加速させているのには理由がある。アメリカではNFL(アメリカンフットボール)、NBA(バスケットボール)など、他のプロスポーツの人気が上昇している。野球は「Old Ball Game」と言われ、退潮が著しい。こうした状況に対応するため、MLBは、競技そのものを変革し、ライバルに伍して新しい魅力を創出しようとしているのだ。
そもそも、MLBはNPBとの人的交流が広がった21世紀初め、日本と手を組んで野球マーケットの国際化を推進しようという意欲を持っていた。
たとえば、WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)は、MLBの前コミッショナー、バド・セリグの発案で始まったものだ。サッカーのワールドカップのような、「野球世界一決定戦」をすることで、野球人気を世界に広げようとした。
日本はこのイベントに大乗り気で、2006年、2009年と2連覇を果たした。MLBはこの機に乗じて、NPBもMLBの考える世界戦略に巻き込もうという意思があった。しかしNPBは競技への参加には意欲的だったが、スポーツビジネスのアライアンスを組むことには関心がなかった。そもそもNPBには、リーグの事務局機能こそあれ、ビジネスを推進する権限も機能も有していなかった。
バド・セリグ前コミッショナーは野球を普及するために世界でトップビジネスを推進したが、日本ではカウンター・パート(対等の交渉相手)を見つけることさえできなかった。NPBのコミッショナーは法曹家か官僚出身で、ビジネスの経験がまったくないから、交渉相手になるはずもなかった。
日本はこの間、外国人選手枠を広げるなど、選手の獲得には熱心だったが、アメリカ流のビジネスモデルには一切関心がなかったのだ。
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