しかし野手は、そもそもMLBでは通用しない。また投手と違い、ほぼ全試合出場する野手の移籍は戦力上痛い。ポスティング移籍でもほとんど値がつかない。「行っても無駄だ」という冷めた認識が広がっているのだ。
大谷翔平は「二刀流」だが、その評価は100マイル(時速160km/h)超の投球によるものであり、打者として成功できるかどうかはまだ未知数だ。
進化するMLBについていけない日本野球
なぜ、日本の野手はMLBで通用しないのか?
野球指導者の根鈴雄次(ねれい・ゆうじ)は、法政大学から2000年にモントリオール・エキスポズ(現・ワシントン・ナショナルズ)のマイナーチームに入団し、メジャー一歩手前の3Aでプレーした経験がある。根鈴はこう語る。
「端的に言えば、投手は投げれば済みます。いい球ならば日本でもアメリカでも、相手を抑えることができる。とりあえず言葉はいりません。しかし野手はただ打つだけでなく、攻守で他の選手との連携が必要です。コミュニケーションが必要になる。言葉のギャップが投手より大きいと思います。それから、打撃の感覚が日米では大きく異なります。日本では投手の球筋を見て、そこにバットの軌道を交差させていく感じですが、アメリカではずばっと投げ込む球を、突然横から手でつかまえるように捕らえます」と話し、以下のように続ける。
「向こうの選手は体が大きいし力があるから、それでも飛んでいく。打撃の感覚がまったく違うんですね。だから、長年NPBで打撃の実績を積んできた選手は、MLBの打撃になかなか適応できない。今年、大谷翔平選手はあまり打席に立ちませんでしたが、MLBの打撃に順応するために、NPBでの打撃の感覚をあまり体に覚え込ませないようにしていたのかもしれません」
さらに言えば、MLBの野球は近年、大きく変化している。軍のレーダー技術を活用して、打球の行方は瞬時にデータ化されている。投手の1球、打者の1打はその方向や球速、軌道などがトラッキングシステムで捕捉され、分析されるのだ。
今のMLBの野手は、打者ごとに打球の方向を分析したデータに基づいて、極端に守備位置を変える。本来二塁手の守備位置に遊撃手や三塁手がいることも珍しくない。一・二塁間に4人の野手が守ることもある。さらに打者も、投手の配球や投球の軌道、回転数などをインプットし、それに対応した打撃を行うようになった。
また、守備が高度化し、打球を予測して野手が守るようになったことで、主力打者は意識して本塁打を狙うようになった。本塁打を打つためのバットの角度やスイングについても、極めて精度の高いアドバイスが行われている。もともと非力で当てる打撃しかできない日本人打者は、こうしたMLBの打撃の進化についていけない。
日本人選手がMLBに挑戦してほぼ四半世紀が経ったが、NPBとMLBの実力差はかえって開いてしまったというべきだろう。それに伴い、NPBとMLBの人的交流の流れは、以前よりも細くなってしまった。
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