「チームワークの機会が増えれば、ストレスは当然増える。そもそも宇宙飛行士にとってストレスは克服できないものでなく、『乗り越えるべきもの』です。」
いったいどういうことだろう?
ストレス耐性のある人=「ハンドルの遊びがある人」
「乗り越えられるもの」として緒方医師が例に出したのは、冒頭に挙げた微小重力だ。宇宙飛行の初期時代には大変なストレスであり、微小重力環境にさらされることで宇宙飛行士の筋力は衰え、骨量は減少した。だが原因を特定し、運動や投薬などの対策を施すことで、「今や宇宙飛行前より筋力や骨量を増やし、力強くなって帰ってくる宇宙飛行士もいるほど」だと。そして精神的ストレスもそれと同じだと言うのだ。
では具体的にどのように「乗り越える」のか。
そもそも宇宙飛行士の場合、最初の選抜の段階で、なるべく「ストレス耐性」の強い人を選んでいる。ここで選ばれる人とは、たとえばストレスへの対処法(コーピングスタイル)を柔軟に持てる人だという。
「ストレスへの対処法には、正面から立ち向かう、避けようとする、楽しいことをして時間が過ぎることを待つなど、さまざまな対処の仕方があります。理想的なのは、困難に立ち向かっていけるけれど、一つひとつまじめに対応しすぎるのでなく、ある程度はしのいで全体として過ごしていけること。『ハンドルの遊びがあるような人』ですね」。
人間はデジタル機器ではない。10度動かしたとき、きっちり10度動くような人は摩擦を起こしやすい。多少揺れても、アウトプットに響かないような「ゆとり」があるほうがいい。そういえば、JAXAで古川飛行士の訓練公開が行われたとき、教官が解説している途中に壁のパネルが突然落ちて場に緊張が走った。すかさず「微小重力の宇宙ならこんなことないですけどね」と古川さんがえびす顔で笑うと、一瞬で空気が和らいだ。ストレスがかかるときこそ笑いに変え、心に余裕を生み出す術を持っているのだ。
自分の弱点がどこにあるかを知る
一方、訓練によって鍛えられる「ストレス耐性」もある最近、ISS参加国は屋内外でのチームワーク訓練に力を入れている。
例えばヨーロッパ宇宙機関は2011年からCAVESといわれる洞穴でのサバイバル訓練を新たに始めた。外の世界から隔離され太陽の光が差し込まない洞窟に多国籍の宇宙飛行士チームが入り、精神的負荷を与えられる。「事前に予断を与えないために、われわれフライト・サージャンにも内容は教えられません。何か事故が起こったときにだけフライト・サージャン間のホットラインで連絡が来ることになっています」。
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