世界最高のストレス環境?宇宙船サバイバル ”宇宙医師”が語る、ストレス対策

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飛ぶまで10年!モチベーションの保ち方

宇宙飛行士達がストレスを感じるのは、宇宙にいるときだけではない。筆者が常々、宇宙飛行士を取材して大変だなと感じるのは、地上にいるとき。「いつ自分が飛べるのか」というゴールが見えない待ち時間の長さだ。

医師やパイロットなどの職業を捨て、高い競争倍率をくぐり抜けて宇宙飛行士に選ばれても、長いレースのスタート地点に立っただけだ。いつ飛べるかは誰にもわからない。能力で飛行の順番が決められるならまだ納得できるが、事故が起これば飛行は延期されるし、国際間の調整や政治的理由など、自分でどうしようもない理由で飛行時期が決まることも多々ある。10年待つことも珍しくない。どうやってモチベーションを保つのか。

緒方医師の「働く」を支える、”宇宙医師”としての思い

「宇宙飛行士たちはものすごく鮮明なモチベーションと高い志を持っています。さらに、同じようにモチベーションの高い、この道何十年という彼らを支えるプロフェッショナルたちが日々、宇宙飛行士と真剣勝負で向き合っている。それを続けることで強いモチベーションが摩耗されることなく、ブラッシュアップされている」。

「どうしても宇宙に行きたい」というほどの強いモチベーションは、特別なものだと思うかもしれない。しかし、宇宙飛行士の事例から学ぶべきは「自分自身のモチベーションの保ち方」を確立することだと緒方医師は助言する。「今の仕事に、本当にモチベーションはないんですか?どこかにあったんじゃないんですか?」と。

「自分がどうしたいか、何になりたいか」をしっかり確認することがモチベーションの土台となり、礎になる。「たとえば会社員の方で、香港支店長になるはずだったのになれなかったなど、当面は思いどおりにならない状況でも、強いモチベーションがあれば『今やることもいつかきっと役立つ』と気持ちを切り替えていくことができると思います」。

そういう緒方医師自身も「3日に1回は仕事を辞めたいなぁと思うんですよ」と笑いながら気持ちを吐露する。「でも、有人宇宙開発にはフライト・サージャンがなくてはならない存在であるにも関わらず、世の中にその存在が知られていない。フライト・サージャンの存在を知ってもらい、仲間が誇り高く仕事ができるようにしたいというモチベーションで気持ちを静めている(笑)」。

ストレス対処の”階段”を上がる

緒方医師の話で印象的だったのは、ストレスをマイナスととらえるのでなく、「脱皮のチャンス」と前向きにとらえている点だ。たとえばストレスは「自己の心の鍵穴に当てはまるカギ」と考える。

「誰でもある方面には強く、ある方面には弱いものです。でも自分でそれらを把握していないことが多い。なるべく体験の機会を増やして、弱い面が見つかったら『心のカギが見つかった』と思えばいい。そこから対処法を考えていくことで脱皮する。一つ階段を上ることができるんです」。

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