坂本龍一は、「仕事」をどう考えているのか 記録映画を通して見る、世界的音楽家の日常

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――通常、こうしたドキュメンタリー映画には、周りに家族やスタッフなどの姿が映し出されるように思うのですが、この作品では坂本さん以外はほとんど映し出されていないのが不思議でした。あれは坂本さんの日常の風景なのでしょうか。

ほぼほぼあれが日常の風景ですね。僕は基本的に、いまだにアシスタントがいなくて。ひとりでコツコツとやっているんです。音楽まわりのことがわかるアメリカ人はひとりいて。困ったときはその人を呼ぶんですが、それ以外の創作はほぼひとりでやっています。

――それはやはり、デジタルがあってこそということなのでしょうか。

家でできるようになってからですね。それ以前は、どうしてもスタジオに行かなきゃいけなかったから。スタジオに行けば、エンジニアがひとりかふたりいて、ミュージシャンがいる、という感じで共同作業になりますけど、今はほとんど自宅です。コンピュータがあるので、ひとりでなんでもできるようになった。ひとりでできるところはひとりでやっちゃいますね。スタジオに行って、ミュージシャンを集めて、録音をする、ということは本当にたまにある程度。1年に何回もないですね。

作品は作っている過程が面白い

若い頃から仕事一辺倒だったと語る (C)2017 SKMTDOC, LLC

――われわれが触れるのは完成形の作品なので、何かが生まれてくる瞬間というのを、興味深く拝見しました。

作ってるほうもそうで、僕に関して言えば、作っている過程が面白い。完成したらもう面白くないんですよ。自分の手から離れてしまうから。だから手が離れて完成したものは、自分が作ったものではないような、客観的なものになってしまう。作っている最中は自分の一部というか、その時間を楽しく過ごしているし、続けていられるんですよ。

――映画の中で「40年近く仕事をしてきたけど、1年間も休むのは初めてだ」といった言葉が印象的でした。やはりワーカホリックだという自覚があったのでしょうか。

完全なワーカホリックですね。おかしな話があって。30代のころ、当時もワーカホリックだったんですけど、アカデミー賞(1988年に『ラストエンペラー』で作曲賞)を取ったんで、自分へのご褒美で1カ月、仕事を全部キャンセルして、休みをくれとお願いして、無理を言って休みをもらったことがありました。これで何もしなくていいんだと思ったんですけど、でも3日目でイライラして、「仕事を入れてくれ!」と。自分でもあきれましたけどね(笑)。

――2014年から1年間休養されましたが、長期間、仕事をしなかった、ということはどういう気分だったんでしょうか。

しあわせだなと思いましたよ。たとえば勤め人だと定年があるじゃないですか。何もしない時間が生まれて、「なんとかロス」というのになるということはよく聞きますけど、これがそういうことなのかな、という気分は味わいました。もともと音楽家とか、ものを作る人間には定年がない。自分でリタイアしようと思えばできるかもしれないけど、もともとそういうものがない職業なので、わからないんですよ。リタイアということが。だから今回はそれを味わったような気分ですね。

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