坂本龍一は、「仕事」をどう考えているのか 記録映画を通して見る、世界的音楽家の日常

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――他人とのコラボレーションで大事にしていることはありますか。

共同作業というのは、完全に対等な力関係でいくということは難しい。だからひとつの仕事をするにしても、どちらかが優先権を持つ。誰の仕事なのか、ということをハッキリさせておかないと、絶対にうまくいかない。どんな些細なことでも、ふたり人間がいれば、絶対にぶつかってしまうから。どんなに親しくて、兄弟のようであっても、何かひとつのことを決めないといけないとなると、どうしても意見はぶつかるし、それがきっかけで仲が悪くなってしまうこともある。趣味とか感覚とか、ものの考え方が完全に一致する人間はいないので。

僕も以前、ものすごく悲しい思いをしたことがあった。そのときの教訓で、これはダメだと。これは誰の仕事なのかということはハッキリさせておこうと決めました。相手の仕事の場合は、相手が決める。自分がいいと思ったことは出すけれども、それをどう思うかは相手が決めることだと。それはいつもハッキリさせています。

共同作業では「誰の仕事か」ハッキリさせている

ドキュメンタリーのワンシーン。東日本大震災による津波で水没したピアノを奏でる   (C)2017 SKMTDOC, LLC

――最初にそういうことを取り決めると。

それは僕が思っているだけですけどね(笑)。ただ、言わなきゃいけないときもありますから。そういうときは「これは君の仕事だ」「これは僕の仕事だ」と、言いますけどね。

――自分はこうしたほうがいいと思うけどな、というようなエゴがぶつかり合うことはないのでしょうか。

映画の仕事だとありますね。どんなにお互いが誠心誠意やっていたとしても、合わないものは合わない。ただ、映画の場合は監督に優先権があるので、それに従わざるをえないんです。僕は一兵卒なんで。こっちに行けと言われたら「はい!」と行くだけです。それが嫌だったらそこを脱走するしかない(笑)。

――そこはちゃんと線引きをするということですね。

このドキュメンタリー映画でもそうです。僕は登場しているだけであって、映画はあくまでも監督のものなの。こうしてくれ、ということはほぼ言っていないです。もちろん好き嫌いは言いますけど、その意見を取り入れるかどうか。最終的な判断は監督にあります。ただ、ひとつだけお願いしたことがあって。「なるべく短くしてくれ、長くするな」ということは言いました。

――それはどうしてでしょうか。

寝ちゃうから(笑)。長い映画は困りますよ。ドキュメンタリーって、だいたい面倒くさいことを取り扱っているわけじゃないですか。みんな、伝えたいことがあるから作っているんでしょ。これは大事なことだから、世界に知らしめたいんだと。だったら観やすいように作らなきゃ。

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