仕事のできない人は数字の読み方を知らない 「当社比120%」に踊らされていませんか

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なのに、われわれはこの数字を見たとき、「そうか、120%なのか。ちゃんと科学的に検証している」と無条件に「比べられた数字」だけを飲み込んでしまう。

エビデンス重視という風潮が強くなっているが、だからといって「数字」そのものだけを凝視するのではなく、その裏側まで考察してこそ「賢い選択」といえるだろう。

「数字の置き換え」が横行している

また、本来数字ではいえないのに、無理やり数字を持ってきて説得力を醸し出そうとしている例もある。

「100人中75人がA社のお茶よりB社のお茶がおいしいと言っています」というB社の広告があったとする。

ここで、仮に「おいしさ」という比例尺度があったとしよう。

その尺度でA社のおいしさが12/100、B社のおいしさが13/100だったとすると、微妙な違いなので100人が飲めば75人くらいは「B社のほうがおいしい」と言うかもしれない。

だからといっておいしさそのものが「75/100」なのではなく、あくまでおいしさは「13/100」である。

「100人中75人がA社のお茶よりB社のお茶がおいしいと言っています」という文言を見たとき、脳内で勝手に「おいしさ=75」と変換してしまうことも多く、そうなればメーカー側の思惑どおりだろう(そもそも、「おいしさ」を比例尺度で表した時点で筆者の思惑が入っており、この設定を違和感なく受け入れた方は、数字の受け止め方に注意しよう)。

このように、「比例尺度」に代表される数字表現と出合ったとき、まずはそれを見破れることが重要である。分母は数(規模、サンプル数)を、そして分子は「その数字が何を意味するのか」を考えることが得策だ。

数字で言ってはいけない

数字を使うことで説得力が弱まるケースも存在する。

たとえば、「一見さんお断り」の高級カフェが京都にできたとする。そこで出されるコーヒーは「1杯3万円」という驚きの値段だが、静かな茶室のような店のしつらえと、シンプルなカップで運ばれてくるコーヒーは文句なくうまく、予約が何年待ちという状態だ。そんな中、無類のコーヒー好きのあなたはようやくそのお店に行くことができ、1杯口に含んだあと、バリスタにこう問う。

「このコーヒーはどういうコーヒーで?」

するとバリスタはすらすらこう答える。

「コロンビア産の豆50%にグアテマラ産の豆20%、インドネシアの豆30%をブレンドし、生豆から3分、10分、15分と時間を追って焙煎し、82メッシュに引いた粉を斤量1.2gの濾紙に18g入れ、82℃のお湯を0.5秒につき5mlずつ注いて淹れたものです」

これは相当に具体的だし、数字という客観性があるので再現性もある。

ただ、大抵の人にとっては「1杯3万円のコーヒー」をいただくにはふさわしい説明ではないだろう。これは「合理的な考え+数字」だと、「おもてなし」にならない、ということであり、「人対人」が重んじられる空間であれば、数字よりも「ある種のあいまいさ」が大切になってくることを示している。

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