日本人が意外と知らない「データ分析」の本質

「スマホで学力が下がる」説を信じていますか

「スマホを使うほど、学力が下がります」

日本医師会・日本小児科医会が2月15日に発表した、「スマホの時間、わたしは何を失うか」と題した啓発ポスターが話題になった。スマホの利用時間が長いと子どものテストの平均正答率が下がることが、文部科学省の全国学力・学習状況調査でわかったというのが、主張のベースになっている。学力だけでなく視力、体力、コミュニケーション能力などにも影響があると訴えている。

しかし、データを批判的に考えられる人ならば、眉に唾をつけて考えるに違いない。

「因果関係」か、それとも「相関関係」か

ここで抜け落ちているのは、そもそも両者が因果関係にあるのか、相関関係にあるのか、という視点である。

「因果関係」とは、二つが原因と結果の関係にあることを意味し、「相関関係」とは、両者に似た傾向があるものの原因と結果ではない関係を意味する。スマホ使用と学力低下は単なる相関関係かもしれず、他に別の要因が潜んでいるかもしれない。そう考えるのだ。

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本当に因果関係があるというのは、一般に考えられているよりもずっと複雑な論証を必要とする。専門家たちは、RCT(ランダム化比較試験)や回帰分析の発展系である操作変数法など、因果関係を実証するための統計的テストの技法を発展させてきた。

冒頭の「スマホ→学力説」と類似した、昔からある言説に「テレビを見ると、学力が下がる」というものがある。これについては、米国の経済学者が操作変数法を用いて検証した2008年の論文がある。それによると、幼少期にテレビを見た人は学力の低下は見られない。それどころか若干ながら成績が上がる効果すら確かめられたという。

「チェリーピッキング」という言葉がある。自分の主張に有利な事例のみを持ち出し、それを一般論のように並べて論証する詭弁の一種である。慶應義塾大学の中室牧子准教授は、「世の中はチェリーピッキングの宝庫だ」と話す。中室氏が医療政策学者の津川友介氏と共同で執筆した「「原因と結果」の経済学」(ダイヤモンド社)には、日本人が信じている、代表的な因果の言説を紹介している。「認可保育所を増やすと、母親は就業する」「女性管理職を増やせば企業は成長する」などである。

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