常識外れの「よなよなエール」が独走するワケ クラフトビールの旗手が挑む販売と生産の壁
転機は楽天市場でのネット販売だった。2004年ごろからネット販売に力を入れ始め、売り上げを伸ばしていった同社。井手社長自らがメールマガジンなどで消費者対応を行ったり、製品開発で独自路線を進めたりした結果だった。
「ほかのメーカーはブームの反動減ですさんでいて、ネット販売すらやっていなかった」(井手社長)こともあり、ヤッホーがクラフトビールメーカーとして頭角を現し始める。
また大手のメーカーとは違い、人手を使った営業活動によって飲食店で扱われたり量販店で棚を確保したりすることが難しいため、リピーターを着実に増やすことによって販売数を伸ばしていった。自社のビールを飲む消費者のことは「ファン」と呼び、冒頭の超宴のようなファンイベントをこれまでに20回以上も開催してきた。
さらに2007年以降は「東京ブラック」「インドの青鬼」など新製品を投入。2012年ごろからのクラフトビールブームも追い風に、販売増にさらに拍車がかかっていった。
キリンとの提携という"異例"な決断
売り上げが伸長し始めると、問題になるのは製造設備。需要に応えるためにはさらなる設備投資が必要になるが、自前での投資だと、需要が減少したときのリスクが大きい。
「2009年の時点で、このままの成長が続くと製造能力がいっぱいになるのはわかっていた」と井手社長。そこで同年に大手4社に製造委託を申し出たが、「あまりにも規模が小さすぎるので受け入れられない、と断られた」(同)。
同社はそこから、大手との提携を見据えて1年間の成長に見合う分だけの設備投資を毎年行っていった。投資額は割高になり時間も余計にかかって非効率だが、過大な設備投資を一気に行わなければ、需要が減少したときのリスクを抑えられるからだ。
2014年に、ようやく大手に製造委託を請け負ってもらえる最低ラインの製造量に到達。再度大手数社に声をかけ、キリンビールとの提携に至った。
個性が売りであるクラフトビール。自社製品の製造をキリンに委託したことについて井手社長は「ヤッホーの戦略はトレードオフの上に成り立っている。製造委託は、自社工場でビールを作るというメーカーとしてのアイデンティティと引き換えに、莫大な額になる設備投資のリスクを抑えることができる。急成長に耐えてクラフトビールの文化をさらに広げるために、製造委託というトレードオフを選んだ」と語る。
その分、自社工場に生まれた余力で既存製品の改良や新製品開発に注力。9月には初めて、旗艦ブランドのよなよなエールを大規模に刷新。香りをより際立たせたことに加え、缶前面の記載を「香りのエールビール」から「クラフトビール」に変更した。
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