ドイツを悩ます難民積極受け入れのジレンマ 欧州では「反移民の風」が強まっている

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まず、当時、ドイツに向かう多くの難民たちがハンガリーの鉄道の駅で動けなくなっていた。ドイツは1990年まで東西に分かれていたが、民主化を求めた旧東ドイツの住民は西ドイツに亡命するためにハンガリーに出国し、そこから電車で西ドイツに向かった。東ドイツの国民にとっては忘れられない光景だ。

東ドイツ出身のメルケル氏にとって、ハンガリーで止められた難民の姿に心を動かされた可能性があると思う。

しかし、そうした感情を別にしても、難民の受け入れは人道主義的な動きの1つという認識があった。心の底から何とかしなければ、という思いがあり、ハンガリーの国境で足止めされている姿を座視できなかった。

政治的な計算もあった。2年後には連邦議会選挙が控えており、失うものと得るものを天秤にかけて決断したのだろう。もしあの難民たちを助けなければ、左派勢力から支持を失う、と思った。

国内でも、「ドイツは十分に豊かな国だ。ほかの国の人を助けられる」という機運が共有されていた。

――これほどの規模の難民を受け入れるのは、少子化傾向にあるドイツが「将来の労働人口を確保するため」という報道があった。実際には、どうだったのか。

当時の国民感情から説明したい。まず、2015年の秋の時点でドイツ国民の多くが他国の困っている人を助けることができる「新しいドイツ」を誇りにし、ドイツのよい面を世界に見せたい、という思いがあった。新たにやってきた人が労働人口となってドイツを助けてくれるだろうという期待もあったが、大きな理由は「人道上」であって、次に「ドイツにとってもよい」という感情があった。

実際には、2015年に入ってきた難民・移民の中で現在正社員として仕事に就いている人は1割だ。当初は過度の期待があった。メルセデス・ベンツやシーメンスなどの大企業が「歓迎する」と表明したが、本当に難民を雇用した大企業はほとんどない。

多くの政党が大規模受け入れに賛成した

――大規模受け入れについて、ほかの政党はどのように反応したのか。

メルケル首相が党首となるキリスト教民主同盟(CDU)の姉妹政党となるキリスト教社会同盟(CSU、当時の連立政権の一部)は「受け入れ上限を20万人にするべき」と頑なな姿勢を示したが、社会民主党(SPD、同様に連立政権の一部)を含め、当時、連邦議会に議席があった政党すべてがメルケル氏の政策を支持した。

反移民のAfDは反対だったが、下院に議席を持っていなかった。下院に議席を持つ政党からの反対がなかったこと、これがAfDの伸長を招いたと私は見ている。

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