ドイツを悩ます難民積極受け入れのジレンマ 欧州では「反移民の風」が強まっている

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リビアと交渉をし、リビア内にいる人が地中海地域に出られないようにすればいい、という考えだ。でも、リビアで国境を守る警備隊は人道的な意味で信頼できる人なのだろうか。欧州の難民流入に対する政策は機能していない。

誰を助けるべきかについても、一考が必要だ。欧州にまでたどり着ける難民の3分の2は男性だ。旅が非常にきついからだ。多くの子どもがいる家族はなかなかやってこられない。渡航エージェントに払うおカネを持っていない人も来られない。

となると、ここに来ている人は生存競争に勝った人だ。必ずしも最も助けを必要としている人ではないのではないか。シリア、アフガニスタン、イラクにはそんな人々がたくさんいるのではないか。

最も助けを必要とする人に支援を提供することを考えるべき。大規模な再定住計画を立てるべきだ――理想論かもしれないが。

地中海は共同墓地ではない

――マイヤーさん自身、苦難の旅をする難民の様子を報道で見てどう感じていたか。

命を懸けて、欧州にたどり着こうとする人々の様子を目にするのはつらかった。私たちからすれば、地中海は休暇で遊びに行く場所だ。「共同墓地」ではない。

そこで根本的な問いかけが出てくる。私たちが持っている富をどのように共有するべきなのか、と。私たちは非常に恵まれている。外からやってくる人々と富を共有せず、自分たちだけで持っていてよいのだろうか。

――議会選挙が終わり、反移民で排他的なAfDが議会入りを果たした。ドイツの難民政策は変わるか。

予測は難しいが、どの政党も包括的な移民法の設置を支持している。移民についてのさまざまな法律はあるが、その全貌が見えにくい。それぞれの法律が独立して存在しており、一括化されていない。包括的な移民法の成立にAfDは反対するだろう。

AfDが連邦議会に初めて議席を持ったことで、政治の議論は変わってくる。党員の中にはナチスを思わせる排他主義的、人種差別主義的発言をする人がいる。「ドイツの大都市圏を歩いていると、ドイツ人を目にしない(移民がいっぱいだ)」とある幹部が発言した。今後、どのような方向に議論が向かうのか、私たち全員が懸念している。

小林 恭子 在英ジャーナリスト

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こばやし・ぎんこ / Ginko Kobayashi

成城大学文芸学部芸術学科(映画専攻)を卒業後、アメリカの投資銀行ファースト・ボストン(現クレディ・スイス)勤務を経て、読売新聞の英字日刊紙デイリー・ヨミウリ紙(現ジャパン・ニューズ紙)の記者となる。2002年、渡英。英国のメディアをジャーナリズムの観点からウォッチングするブログ「英国メディア・ウオッチ」を運営しながら、業界紙、雑誌などにメディア記事を執筆。著書に『英国公文書の世界史 一次資料の宝石箱』。

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