USJ再生の森岡氏が新会社「刀」を作った理由 日本を代表するマーケッターが動いた

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「覚悟を決めた日本企業がマーケティング能力を 獲得するための、武器になりたい」。森岡CEOは「ドリームチーム」で新たな一歩を踏み出す(撮影:今井康一)

――具体的なクライアント(顧客)としては、どんな業種や企業になりますか。すでに決まっているのでしょうか。

かつてUSJから私が招聘を受けたように、「会社を根本から変えたいのであなたたちの会社に来てほしい」という覚悟を持って、私たちの会社にマーケティングのノウハウの移植を全力でやらせていただけるところなら、業種などは問いません。

ただ、以下のような2つのポリシーは持ちたいと思います。1つは侍、武士としての作法であり、「自律したいこと」といってもいいかもしれません。やはり、自分自身の作品として思い入れがあるUSJに直接的にダメージを与える地元競合のお手伝いは、しばらくは遠慮したいと思います。

もう1つのほうは、より具体的なお話です。さまざまないきさつがあるにせよ、マーケティングの力を利用できていない業界になると思います。たとえば、メーカー全般が主にあてはまりますが、技術に重きを置きすぎている業界・企業です。モノを売ることに誇りを持って発展した企業は、ともすれば「作れば売れる」を経験してきたために、作ることが生業になり、作ることを自己肯定したいバイアスがかかります。こういう企業は「消費者視点が大事」と口では言いながら、「自分が消費者視点ではない」とは思っていない企業が多いのです。

また、小売業や保険を含めた金融なども候補の1つです。小売業は国内の人口減少の中で成長が頭打ちになっているにもかかわらず、マーケティング力が弱いので、本来ならローカルな日本企業として日本人の感性がよくわかっているはずなのに、グローバル企業の侵食を受けています。また、金融業界は膨大なビッグデータを駆使しながら、「大多数の消費者のプレファレンス(ブランドに対する相対的な好感度)を上げるための戦いをどう制するか」という戦略もさることながら、富裕層インサイト(富裕者層がどういう購買意欲を持っているかを見抜く洞察力)のマーケティング力が弱い。今のままでは、大事なところをいよいよ外資が持っていくということになりかねません。

「覚悟を決めた顧客」のために命懸けで再生に取り組む

――森岡さんの偉大な実績があれば、顧客は引く手あまたでは?

そもそも私たちは「百発百中」だとは思っていません。また私たちの仲間は一騎当千の人物ばかりで、決して安くありません。顧客の覚悟もいります。逆にいえば、信じて預けてくだされば、相手のニーズにマーケティングのノウハウをカスタマイズして、チームとして乗り込み、私が責任を持って最終的な品質の担保までして命懸けで働きます。それだけに、多くの数は引き受けられません。

先日、たまたまある水族館を訪れ、マグロを見ていたら、ジーンときました。「自分は(大海原を猛スピードで泳ぐ)マグロと一緒かもしれない。マグロは止まると息ができずに死んでしまう。自分も止まらず進み続けないと死んでしまう性分なんだ」と。人生は1回きり。チャレンジが、エキサイトメントが必要です。「大変革の時代に覚悟を決めた企業がマーケティング能力を獲得するための、武器になりたい」。そんな気持ちでのスタートです。

福井 純 東洋経済 記者

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ふくい じゅん / Jun Fukui

「会社四季報オンライン」編集部長。『週刊東洋経済』編集部、『会社四季報プロ500』『株式ウイークリー』『オール投資』編集長、「東洋経済オンライン」編集部長、証券部長を経て現職。国際テクニカルアナリスト連盟認定テクニカルアナリスト(CFTe®)、日本テクニカルアナリスト協会理事

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