国家予算の26%をつぎ込んだ「人造石油」計画 山本五十六を苦しめた「エネルギー問題」とは

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山本:お話を山本五十六に戻しましょう。三田先生が描かれる山本五十六は、スーパーヒーロー然とした姿で登場しましたが、連載するにつれ、最近は少し違ってきましたね?

「信長、秀吉、家康、五十六」

『アルキメデスの大戦(1)』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします) 

三田:山本五十六は、誰でも知っている太平洋戦争のアイコンです。戦国時代でいえば、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康で、読者の方々に興味を持ってもらうのに最適な存在なのです。しかも山本さんのおっしゃるとおり、多面体というか、本当はどうだったのか、とらえどころがないところが、漫画家にとっては魅力的な素材です。

真珠湾攻撃のおかげで、時間が経てば経つほど、五十六はスーパーヒーローになっていくのではないか、と。100年、200年後には、五十六は伝説の存在になると思います。信長の「桶狭間」、秀吉の「小田原征伐」、家康の「関ヶ原」と同レベルで五十六の「真珠湾」が語られていく。何しろ、あの世界最強国家・アメリカ合衆国に強烈な一撃を加えたんですから(笑)。でも、最近の『アルキメデスの大戦』の五十六は、そこから一歩踏み出して、ヒーローらしからぬ生臭い人間になってきました。一言でいえば、ちょっとずるい人(笑)。

『水を石油に変える人 山本五十六、不覚の一瞬』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします) 

山本:私個人としては、主人公に立ちはだかる「悪役キャラ」の平山造船中将の今後が非常に気になります。モデルになった平賀譲造船中将は、後に「左遷」されて、東京帝大の教授となり、その後東大総長を務めた人物で、私の関係者の方々と何かと縁深いものですから(笑)。

三田:東大に左遷、ですか(笑)。前に対談させていただいた「大和ミュージアム(呉市海事歴史科学館)」の戸髙一成館長も、平山造船中将のことを非常に気にかけていました。「あの人はかわいそうな人なんです。物語の中だけでも、何とか報いてあげてください」と。オジサンに大人気ですね(大笑)。

山本:私は主人公・櫂直の中にも、史実の平賀さんが投影されているように感じました。平賀さんは非常に数学に堪能な方でしたから。

(構成:後藤 一信)

三田 紀房 漫画家

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みた のりふさ / Norifusa Mita

1958年生まれ、岩手県北上市出身。明治大学政治経済学部卒業。代表作に『ドラゴン桜』『インベスターZ』『エンゼルバンク』『クロカン』『砂の栄冠』など。『ドラゴン桜』で2005年第29回講談社漫画賞、平成17年度文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞。現在、「ヤングマガジン」にて『アルキメデスの大戦』、「グランドジャンプ」にて『Dr,Eggs-ドクターエッグス-』を連載中。

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山本 一生 近代史家

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やまもと いっしょう / Issho Yamamoto

1948年生まれ。東京大学文学部国史学科卒。石油精製会社勤務の傍ら競馬の歴史や血統に関するエッセイを発表。1997年にフリーになると近代史に転じ、恩師である伊藤隆東大名誉教授のもとで『有馬頼寧日記』の編集に加わり、その後は「日記読み」として戦間期の日記をもとに時代を読み解く作業を行っている。

『恋と伯爵と大正デモクラシー:有馬頼寧日記1919』(日本経済新聞出版社)で第56回日本エッセイスト・クラブ賞受賞。

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