乙武洋匡が見たガザ地区の痛ましすぎる現実

失業率40%超、空爆が日常の難民キャンプ

少しでも彼らを安心させたかったのだけれど…

覚えたてのアラビア語で叫んでみた。「怪しいものではありませんよ」と、少しでも彼らを安心させたかったのだが、ほとんど目にしたこともないだろう東洋人であり、手も足もない体で車いすに乗る障害者である私は、どこからどうみても怪しかったに違いない。

姉弟なのだろうか。切れ長の目をした少女は、弟らしき小さな男の子の手を握りしめたまま、ずっと私たちの後についてくる。ふたたび「サラマリコン」と声をかけても、笑顔を向けても、手を振っても、特に反応を示すことはない。それでも一定の距離を保ったまま、ずっと私たちの後についてくる。次第に、それが日本語とアラビア語を互いに理解できない私たちなりのコミュニケーションであるかのように思えてきた。

路地が突き当たり、左に曲がる。突き当たりの壁に、アラブ人男性のトレードマークともいえるクーフィーヤを身に着けた男性の肖像画が描かれているのが見えた。どこかで見覚えがある顔だなどと思いながらさらに進んでいくと、そこで不敵な笑みを浮かべていたのは、やはりヤセル・アラファトだった。13年前にこの世を去ったパレスチナの初代大統領は、現在の混迷と窮状をどのように見ているのだろうか。

ここは、あくまで難民キャンプ

人々は支え合って生活をしているが…

そんな感傷的な気持ちを置き去りにして、ドライバーはぐんぐん進んでいく。さすがにガザで2番目の規模を誇る難民キャンプだけあって、歩いても歩いても終わることがない。電気やガス、上下水道といったライフラインさえ満足に整備されていないエリアだが、コミュニティとしては機能しており、人々は支え合って生活をしている。だが、それも決して望ましい状況ではないのだという。

ここは、あくまで難民キャンプ。仕事が見つかり、自立できるようになった人は、ここを巣立っていくことになる。だが、先にも紹介したようにガザでは失業率が40%を超えている。仕事を見つけることは、そう簡単なことではない。家を借りることができるほどの仕事に恵まれ、数年で出ていく人もわずかにいるが、もう何十年もこのビーチ・キャンプに住み続けている人がほとんどだという。コミュニティとして機能しているのも、そのためだ。

幾多の細い路地から成り立つビーチ・キャンプを歩き回るうち、私たちはいつしか車を停めていた通りに戻ってきた。ドライバーに促され、車に乗り込む。

「どうだった?」

感想を聞かれ、言葉に詰まった。「興味深かった」「多くの学びがあった」「驚かされた」――そのどれもがしっくり来ず、何の返答もできずにいた私に、ドライバーがさらに続けた。

「俺もここに住んでいるんだ」

私は、いよいよ返す言葉を見失ってしまった。

(8月23日配信の後編に続く)

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