NAFTAで雇用が奪われたのは、メキシコも同じ
今となっては、読者のみなさんも米国のドナルド・トランプ大統領の性格がよくおわかりになっていることと思います。彼は自分にとって不都合な事実を認めないばかりか、自分を正当化するためには「平気でうそをつく人物」であるということです。
さらに困ったことに、自分に対する批判には感情的になって反論せずにはいられない「短気で攻撃的な性格」であるということです。そのうえ、経済や歴史を知らない、あるいは知ろうともしない反知性の象徴のような人物であるともいえます。トランプ大統領の偏った物事の見方は、あらゆる事象の一面しかとらえていないのです。
経済や歴史を知らない、反知性の典型例を挙げるとすれば、まずはNAFTA(北米自由貿易協定)の見直しを取り上げることができます。確かに、米国の製造業がNAFTAの仕組みを使い、メキシコへ工場を移転することで、製造業の一部の雇用が米国から奪われたというのは事実です。
しかしその一方で、メキシコの農業は米国の農産物の攻勢にさらされ、壊滅的な打撃を受けたという事実も無視してはいけません。NAFTAによって雇用が奪われたのは、米国だけではないというわけです。
トランプ政権の構想では、メキシコからの輸入品に20%の課税をするということですが、そのようなことをすればメキシコも米国からの輸入品に報復関税を課すことが避けられないでしょう。2015年のメキシコから米国への輸出額は2480億ドルである一方で、米国からメキシコへの輸出額は1477億ドルと決して小さくはないのです。報復合戦となる貿易戦争に発展すれば、メキシコ経済だけでなく、米国経済も着実にむしばまれていくというわけです。
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