反知性の象徴として無知なところは、移民の入国を制限・停止するという方針にも表れています。ドイツのように許容範囲を超える移民・難民が中東から押し寄せるのは多少問題があるかもしれませんが、中東から米国へはそれほどの移民・難民は入国していません。トランプ大統領はテロの危険性を和らげるための措置だと強弁していますが、それよりも米国内で憎悪犯罪(ヘイトクライム)が増加していることのほうが、米国社会の分断を促しているので、大問題であると思われます。宗教間の対立をあおる政権の手法は、いずれの民主国家からも支持されることはなく、米国の魅力を大いに損なうことになりかねません。
米国の経済にとって、移民は主に2つの意味で大きく貢献しています。ひとつは、米国のイノベーションは「H-1B」(科学者や技術者が対象となるビザ)の制度によって成り立っているということです。H-1Bというビザがなければ、シリコンバレーもグーグルもフェイスブックも誕生しなかったといえるでしょう。もうひとつは、移民が米国経済に完全に組み込まれているということです。建設や農業のコスト構造は、低賃金の移民を前提に成り立っていて、移民の多くが法定最低賃金を下回る水準で働いているという事実があるのです。要するに、移民こそが米国の競争力を支えているといっても過言ではないというわけです。
「科学技術軽視」で米国は「成長力の源泉」を損なう
反知性の象徴として最後に挙げるのは、科学技術の分野を軽視しているということです。トランプ政権の2018会計年度の予算方針では、科学技術予算を大幅に削減する姿勢を鮮明に打ち出しているのです。狙い撃ちされているのは、米国環境保護局(EPA)や米国国立衛生研究所(NIH)の予算です。実際の予算は議会が審議および承認をするため、さすがにこのまま成立するとは思えませんが、仮にこのまま成立するようなことがあれば、地球温暖化対策や生命科学の研究は縮小を余儀なくされ、米国の成長力の源泉が損なわれる可能性が高まっていくでしょう。
おまけに、トランプ政権は環境保護局、国立衛生研究所、農務省などに対して、これからの研究結果を公表しないようにと通達を出しています。大統領が懐疑的に見ている地球温暖化やがんの免疫療法などで、自らが信じたくない事実が明るみに出ないように情報統制を始めているのです。政権は客観的事実を軽視するどころか、データの捏造もいとわない危険な体質を見せ始めています。このような状況では、世界中から優秀な科学者を引き付けていた米国の魅力は薄れてしまいます。科学の衰退が国力の低下に結び付くという歴史を、無知な大統領はまったく理解できていないのでしょう。
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