それは、高まる春への期待が、見事に裏切られた出来事だった。
春分の日を過ぎ、カレンダー上は春を迎えていた3月後半。米国の首都ワシントンは、これまで100年以上にわたってなかったという異常事態に見舞われていた。桜の名所として知られるワシントンで、その花の半分がつぼみのまま枯れてしまったのだ。2月のワシントンは、記録的な暖かさだった。そのため、桜のつぼみが早々に膨らみ、例年よりも格段に早く、見事な桜が見られるとの期待が高まっていた。
つぼみのまま枯れた「オバマケア代替案」
しかし、期待は時期尚早だった。いよいよ開花が近づいた3月中旬、ワシントンに季節外れの寒波が来襲。開花直前の桜のつぼみが突然の寒波に、太刀打ちできるはずもない。ポトマック川近くの桜の名所では、開くことのないまま枯れてしまった桜のつぼみが、あちこちで無残な姿を見せていた。
高い期待が打ち砕かれたその姿は、今のトランプ政権と重なる。3月24日にトランプ政権は、その日の夕方に議会で予定されていたオバマケアを廃止・修正する代替法案の採決を、土壇場で中止した。可決に必要な賛成票が見込めなかったからだ。
これはトランプ政権にとって大きな痛手だ。オバマ前政権による医療保険制度改革の成果であるオバマケアの廃止・修正は、トランプ政権の重要な公約だった。当選後の株式市場の続騰が示すように、トランプ政権の経済政策への期待は高かった。しかし、議会で身内の共和党が多数党であるにもかかわらず、最初に挑んだ公約の立法化に失敗したことで、減税やインフラ投資など、その他の経済政策の実現にも、いよいよ暗雲が垂れ込めてきたのである。
トランプ政権は、何らかの成果を上げる必要に迫られている。「ディールメーカー」としてのドナルド・トランプ大統領の評価を、立て直さなければならないからだ。
政治経験のないトランプ大統領が支持された理由のひとつは、ビジネスで培ったディールをまとめあげる力への期待だった。オバマケアの廃止・修正は、その実力を見せつける絶好の機会だったはずだ。実際にトランプ大統領は、ここぞとばかりに自ら共和党議員の説得に乗り出すなど、精力的な動きをみせていた。
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