さらに、夏から秋にかけては、法定債務上限の引き上げが必要になる。上限の引き上げにてこずれば、米国のデフォルト懸念が高まり、市場が大荒れになりかねない。そうなれば、税制改革どころの騒ぎではなくなってしまう。
第2に、政治的な緊急性が高まった。オバマケアの代替法案では結束できなかった議会共和党だが、このまま無策でいる余裕はない。今こそ成果が必要なのは、トランプ政権だけではない。議会共和党も同じである。むしろ、その緊急性はトランプ政権よりも高い。2018年11月には、議会の中間選挙が行われる。4年の任期が始まったばかりのトランプ政権よりも先に、議会共和党は有権者の審判を受けなければならない。
何の成果もあげずに選挙に臨めば、議会共和党の苦戦は避けられない。オバマケアの廃止・修正で公約を実現できなかったからこそ、税制改革での取りこぼしは許されなくなった。
国境調整税後退で、税制改革が前進?
第3に、共和党議員の取りまとめに失敗した責任を問われ、共和党のライアン下院議長の立場が弱まったことも、税制改革にはプラスに働くかもしれない。ライアン議長は、議論が紛糾している国境調整税の支持者だからだ。
国境調整税導入の是非をめぐる議論の紛糾は、税制改革実現への大きな障害となっている。主唱者であるライアン議長の威信低下により、国境調整税の導入論は、勢いを失いそうな情勢だ。ライアン議長は、輸入品への課税を強め、輸出品には減税を行う国境調整税の導入を主張してきた。しかし、輸入品の価格が上昇することへの懸念などから、小売り業界などが強く反対しており、共和党内でも意見が割れていた。
そもそも国境調整税に関しては、トランプ政権の態度も煮え切らなかった。前述の懇談会でムニューシン長官は、「(小売り大手の)ウォルマートで買い物したり働いたりしている人に、なぜ国境調整税が良いことなのか説明してほしい」と問われたのに対し、正面から回答することを避け、国境調整税には利点と懸念が混在していると述べた。
もちろん、良いことばかりではない。オバマケア代替法案での挫折で、税制改革のハードルが高まった面もある。たとえば、議会共和党のリーダーであるライアン議長の求心力低下は、税制改革における意見集約を難しくしかねない。
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