重要なことをメールする人が知らない危険性 ゲイツもジョブズもメールで失敗している
トランプ・ジュニアの電子メール問題は、世界的な業務用コミュニケーションツールとしての電子メールにとどめを刺すかもしれない。実業界や政界ではすでに「スラック(Slack)」のようなクラウドベースのビジネス向けコミュニケーションツールや、「シグナル(Signal)」のようなスパイの親玉も安心できるチャットアプリといった別の通信手段への移行が始まっている。どれもメッセージの自動削除や暗号化といった機能を備えており、完全に秘密を守れるとは言えないものの、電子メールと比べれば防御は堅い。
ゲイツやジョブズもメールで失敗
それでも私たちは、電子メールをありがたがるのと同じくらいその「死」を悼むべきだ。次世代のコミュニケーションツールでは、あらゆる機関・組織がプライバシーを手にするはずだが、その結果、公共の透明性は失われる。
ドナルド・ジュニアの電子メール問題は、その理由をはっきり示している。トランプ・ジュニアもメールの相手であるロブ・ゴールドストーン(エンターテインメント業界の広報業者で、トランプ・オーガナイゼーションとも関係があった人物)も、自分たちの会話がデリケートな問題を扱っていることは理解していた。ゴールドストーンは実際、電子メールのやり取りの中でそのことに何度も言及している。
メールの特徴の1つは「非同時性」だ。電話と違って相手がいないときでも送れる。だが今回の事例では、トランプ・ジュニアもゴールドストーンも電話でリアルタイムに話をすることは可能だったように思われる。というのも、一部のメールは数分間隔でやり取りされていたからだ。そればかりか、2人ともしばしばiPhoneを使っていた。
要するに2人とも、アプリを切り替えて電話で話すことが可能だったわけだ。そのほうが話は早いし、ほとんど何の痕跡も残さなかったはずだ(公開されたメールによれば、2人は電話で話すことも検討していたが、実行に移したかどうかははっきりしていない)。
だが、そうはならなかった。機密を守れるかどうかはさておき、電子メールにはどこかあらがえない魅力がある。使い方は簡単でその場で送れるし、その時点では秘密を守れるように思えてしまう。
トランプ・ジュニアの電子メールのやり取りを見ると、あまりに恥知らずな会話にぎょっとするかもしれない。大統領候補の陣営に外国政府からの応援を取り次ぐなどという話をメールに書くなど、いったいどんな感性の持ち主なのだろう。
だがこうしたことは電子メールでは珍しくない。ゴールドストーンやトランプ・ジュニアよりもITに通暁した人でもメールの魅力に惑わされた。米司法省のマイクロソフトに対する捜査で重要な証拠とされたのはビル・ゲイツのメールだったし、スティーブ・ジョブズが書いた図々しい内容のメールはいくつかの訴訟でアップルに不利に働いた。エンロンを潰したのもメールだし、ウーバーのトラビス・カラニック前最高経営責任者(CEO)が辞任に追い込まれた原因の一端もメールにあった。
これらは氷山の一角にすぎない。ホワイトカラー犯罪の捜査においてはいまや、メールが証拠の要となっている。
もう電子メールの先は長くない。ドナルド・ジュニアのメールを堪能するといい。これは電子メールの最後の花火だ。
(執筆:FARHAD MANJOO コラムニスト、翻訳:村井裕美)
(c) 2017 New York Times News Service
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