パナマ文書は近代国家への信頼を崩壊させた セドラチェク氏と水野和夫氏、「危機」を語る

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トーマス・セドラチェク氏(右)と水野和夫氏の特別対談です(撮影:尾形文繁)
神話、歴史、哲学などの切り口から経済学のあり方を問い直した『善と悪の経済学』は、15カ国語に翻訳され、世界中で話題を呼んでいる。その著者で、プラハ・カレル大学在学中にチェコ共和国のヴァーツラフ・ハヴェル初代大統領の経済アドバイザーを務めた気鋭の経済学者、トーマス・セドラチェク氏が4月下旬に来日。日本滞在中、ベストセラー『資本主義の終焉と歴史の危機』の著者である経済学者の水野和夫氏と対談し、現在の資本主義や国家のシステムの限界について語り合った。

 

――さまざまな社会経済問題が噴出している今、資本主義は重大な転換点を迎えているように見えます。まず、多くの政治、経済界のリーダーを巻き込むスキャンダルとなった「パナマ文書」について伺います。

セドラチェク:パナマ文書は、エドワード・スノーデン事件やウィキリークスの台頭に続く、大きな情報漏洩事件ですが、これまでと異なり、政界のみならずビジネス界にも大きな影響が及んでいます。

そして、スウェーデンのように透明性が高いと見られていた国の人物の名前まで挙がったことも注目されます。

国家システムには大切な3つのポイントがある

セドラチェク氏の『善と悪の経済学』は欧州各国でベストセラーになった(上の書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします)

水野:おっしゃるとおり、このインパクトは非常に大きいと思います。そもそも国家システムには大切にしなければならない3つのポイントがあります。生命の安全、信義・約束の遵守、そして財産の保護です。

今、世界ではこの3つが大揺れに揺れている。パナマ文書の問題は、2番目の信義に明らかに反します。ほかの2つも、まずい状態になっていて、生命の安全はテロによって脅かされ、財産の保全もマイナス金利によって脅かされている。

セドラチェク:この事件は、裕福になることが倫理観にはつながらないこと、そして人はその裕福さに満足することもなく、さらなる欲望をかき立てるだけだということを明らかにしました。

水野先生のおっしゃるとおり、国が守るべきとされている信義にも反している。特に、タックスヘイブン(租税回避地)の問題を追及していたはずの政治家が、実はそれを利用していたというのは、最悪の偽善的行為です。

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