パナマ文書は近代国家への信頼を崩壊させた セドラチェク氏と水野和夫氏、「危機」を語る

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――さまざまな問題を抱える現行の国家・世界システムは将来、どうなるのでしょうか。

水野:中世から近代の歴史を振り返ると、世界に版図を広げたスペイン帝国は大きすぎ、イタリア都市国家では小さすぎたため、国民国家のサイズに収斂されてきました。

しかし、経済活動がグローバルに拡大したことで、今まで最適だった国民国家のサイズが最適ではなくなってきています。また、国境を越えてくるテロリストの問題にも対応できていません。

相続による富は、本来の持ち物ではない

「必ずしも国家は必要とはされなくなるのかもしれない」

セドラチェク:欧州は今、テロ事件への対応で途方に暮れています。テロ事件の容疑者が、自国で生まれ育った者だったことが明らかになり、海外からの脅威なのか、自国内の脅威なのか、混乱が生じているのです。

インターネットの世界は、国籍で人を識別する必要がありませんが、そのことが、現実の国家のあり方とも関わってくることになるでしょう。インフラ整備なら都市単位で可能ですし、地球環境や金融はグローバルレベルでの意思決定が求められます。政治は国家のみに宿るわけではないので、必ずしも国家は必要とはされなくなるのかもしれません。

――日本でも経済格差が問題になっていますが、格差是正についてはどう考えていますか。

水野:世界の上位62人の財産が下位36億人の財産と同じという調査結果が明らかにされましたが、富の格差は、生産性の違いで説明できるレベルをはるかに超えてしまっています。

セドラチェク:経済成長が絶対主義の終焉と民主主義をもたらすと主張し、格差の是正まで期待する人もいますが、成長から得られる富にそこまで期待することはできません。

私は、多くの人が飲むコーラは、どの国でも同じ味の共産主義的な飲み物だと思っています。しかし、資本主義のルールでは、裕福な人は高級な酒を飲み、そうでない人は普通の酒を飲むという格差が生じます。それは資本主義のルールに基づく自然な結果だと思っています。

ただし、ゲームのモノポリーでも、いったん勝者が決まればそこでゲームはリセットされ、次はまた同一条件で最初から始まります。

水野:世代を超えた相続による格差は、所得への累進課税では是正できない状況になっています。

経済学者のトマ・ピケティ氏が主張するように、過去の所得の蓄積である金融資産に対して課税をすべきだと考えています。

セドラチェク:旧約聖書によれば、ヘブライ人は50年ごとのヨベルの年に、財産や奴隷を解放したとされています。富を相続した人は、本来、自分のものではない畑から収穫したもので潤っているのだということを忘れてはなりません。

パナマ文書が浮き彫りにした、課税されない多額の資産は、そうした大きな問題を指摘しているのです。

山田 俊浩 東洋経済 記者

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やまだ としひろ / Toshihiro Yamada

早稲田大学政治経済学部政治学科卒。東洋経済新報社に入り1995年から記者。竹中プログラムに揺れる金融業界を担当したこともあるが、ほとんどの期間を『週刊東洋経済』の編集者、IT・ネットまわりの現場記者として過ごしてきた。2013年10月からニュース編集長。2014年7月から2018年11月まで東洋経済オンライン編集長。2019年1月から2020年9月まで週刊東洋経済編集長。2020年10月から会社四季報センター長。2000年に唯一の著書『孫正義の将来』(東洋経済新報社)を書いたことがある。早く次の作品を書きたい、と構想を練るもののまだ書けないまま。趣味はオーボエ(都民交響楽団所属)。

 

 

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