パナマ文書は近代国家への信頼を崩壊させた セドラチェク氏と水野和夫氏、「危機」を語る

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水野和夫(みずの かずお)/1953年、愛知県生まれ。法政大学法学部教授。埼玉大学大学院経済科学研究科博士課程終了。博士(経済学)。三菱UFJモルガン・スタンレー証券チーフエコノミストを経て、内閣府大臣官房審議官(経済財政分析担当)、内閣官房内閣審議官(国家戦略室)を歴任

水野:もちろん、歩調を合わせる努力は必要です。しかし、欧州統合に向けた取り組みは、各国がナショナリズムを克服しないと成功しない。これが簡単ではない。

セドラチェク:おっしゃるとおりですね。各国ともナショナリズムを克服しようと努力してきた。今でもその努力は続いていますが、最近は、難民問題で足並みが乱れている。過去の戦争の背景にあったのもナショナリズムです。今、その恐怖が頭をもたげつつあると感じています。

――各国のナショナリズムが台頭すればEU崩壊につながるかもしれない。そのリスクをどう見ていますか。

セドラチェク:統一通貨ユーロの維持がカギになるでしょう。債務危機などの試練に直面しているユーロが崩壊し、各国通貨がバラバラになれば、欧州はまとまりを失ってしまいます。

各国が協力してユーロを守り、貿易を促進することが、欧州統合の成功につながると考えています。ユーロは発足から十数年しかたっていないため、問題が起きると、批判を向けられやすい状況にあります。

ですが、ユーロの導入によって、自国通貨の為替レートを切り下げて輸出を有利にする近隣窮乏化政策などの懸念もなくなり、透明性が増したということもあります。そうした面にも目を向け、長い目で見守ってほしいと思います。

自国経済の成長至上主義を止めて国際協調を

水野:『善と悪の経済学』は、ギルガメシュ叙事詩から経済学を説き起こしていて、その博覧強記ぶりに感心しました。

セドラチェク:この本では、現代の資本主義はどのような経緯で、今のような形になったのかを明らかにすることを目指しました。現在の経済システムは、資本主義というよりは、自国の経済成長を過度に重視する成長資本主義と呼んだほうが適切だと思っています。

経済的、文化的余裕がある先進国は、できれば貧困に悩む人を助けることに、もっと目を向けていただきたい。理想主義かもしれませんが、国同士が力を合わせて、世界全体が協調する方向に進めば、世界はもっと良くなるはずです。

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