運転手も逃げ始めた タクシー業界の悲鳴

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全国のタクシー業者が値上げの動きを見せている。車両数の急増でパイの奪い合いが激化し、業者の業績は低迷。運転手の労働環境も悪化。規制緩和がもたらしたものとは。(『週刊東洋経済』9月8日号より)

 「経営の限界に来ている」--。全国のタクシー業者は追い詰められている。

 国土交通省はこのほど、タクシー運賃について、秋田県などの値上げ申請を認可した。4月には、長野県と大分県の値上げを認めている。値上げは実に10年ぶり。同省には昨年以降、全国50地域から同様の申請が相次いでいる。

 結論が先送りされた東京地区(23区、武蔵野市、三鷹市)についても、今後の協議で認められる可能性が高い。同地区の値上げは物価全体に影響を及ぼすため、政府の関係閣僚会議の了承が必要だ。政府内には「経営側の努力に疑問がある」などの慎重論も少なくない。が、国交省や内閣府は、初乗り運賃上限を現行660円から700円前後(申請は750~810円)とすることを軸に、調整を本格化しているものとみられる。

 安易な値上げは利用者離れにつながる。それでもタクシー業者が値上げに踏み切るのは経営環境が極度に悪化しているからにほかならない。

 「タクシー部門は年間3000万円の赤字。不動産収入で何とかしのいでいる状態」。都内の大手業者社長はこう吐露する。業者数約5万5000、運転手数43万人、営業収入2兆円という規模のタクシー業界。戦中に誕生した4大手(大和自動車交通、国際自動車、帝都自動車交通、日本交通)が業界の中枢を占める一方、ほとんどは資本金3000万円以下の中小業者だ。

 業界は過当競争に陥っている。バブル崩壊以降、利用者数と走行距離は右肩下がり。そこに2002年2月施行の「新道路運送法」が追い打ちをかけた。それまで規制されていた新規参入や保有車両、運賃などの自由度が大幅に高まり、車両台数が急増したのだ。需給バランスが崩れた結果、車両の稼働率は低迷。走りながら利用客を見つける「流し営業」が多い東京都のそれは、45%でしかない。つれて、運転手1人当たりの営業収入も激減している。

 業績を伸ばす業者も中にはある。02年設立のハロー・トーキョー(東京都江東区)は全地球測位システム(GPS)をフル活用し、流し営業の走行経路を理論化。高稼働率を誇り、運転手1人当たりの営業収入(1日)は6万5000円と、業界平均を3割も上回る。本社はプレハブ建てとコスト抑制も徹底。ただ、信用調査会社によると、同社の純利益は2000万円弱(05年12月期)。「これだけ努力しても儲からない」と、兼元知大COOは嘆く。

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