運転手も逃げ始めた タクシー業界の悲鳴

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シワ寄せは運転手に 自由化は正しかったか

 タクシー業界は、売上高に占める人件費率が8割という労働集約型産業。業績低迷のシワ寄せは、歩合給主体の運転手に集中する。年間賃金は今や302万円と、10年前の7割の水準。全産業平均より250万円も低い。運転手は収入を少しでも増やそうと過酷な労働に走る。「休憩なしで24時間走り続ける運転手もいる」(都内のベテラン運転手)。年間労働時間は2388時間と、全産業平均を200時間も上回る。
 こんな業界に人手が集まるはずもない。規制緩和と同時に全体の運転手数は確かに増加した。ただ、現状では「車両増に見合う運転手数を確保できていない」(東京乗用旅客自動車協会の藤崎幸郎専務理事)。安全と採算を同時に確保するためには、1車両につき2・5~2・7人の運転手が必要だが、全国平均のそれは1・5人と極めて低い水準だ。

 「最近入ってきた人は、すぐに辞めていく」と先述の運転手。過酷で低賃金の労働環境に耐え切れず、退社する運転手が多いというのだ。一方で競争力の低下に直結するため、業者は車両を減らす方策をとりにくい。旅客協は値上げ分のほとんどを運転手に還元する方針を打ち出す。賃金アップで運転手をつなぎ留める狙いだ。とはいえ、10%程度の運賃値上げは業者や運転手にとって焼け石に水となりかねない。

 現状を招いた構造的原因は何か。安易な台数増で手っ取り早く収入を上げようとした業者はなかったか。サービスの向上に全力で取り組んだのか。業者の姿勢に疑問が残るのは確かだ。しかし、相次ぐ値上げ申請のきっかけが鳴り物入りで始まった規制緩和にあることは、逆説的ではあるが、間違いない。国交省は「需給バランスが大崩れしているわけではなく、運賃多様化も図られた」と一定の効果があったとする。しかし、大幅な自由化が運転手の生活ばかりを犠牲にしてはいないだろうか。このことは、ひいては安全運行にもかかわる。行政は今こそ、規制緩和の意味を検証すべきだ。

(書き手:梅咲恵司)

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