野球用具業界では、硬式野球競技者は上得意の「シリアスプレーヤー」に分類される。客単価も大きく、売り上げも大きい。特に高校野球はボリュームゾーンだが、この競技人口が減少に転じたことをメーカーは深刻に受け止めていた。
しかし、高野連のこの数字以上に、高校野球の現場は深刻だ。2012年、高野連は複数の高校が1つのチームを作る「連合チーム」の大会参加を全面的に承認した。これも参加校数、競技人口の減少を食い止める施策の一つだと思われる。
本来ならば部員数が9人を割り込み、助っ人の見込みもない学校の野球部は廃部に追い込まれるはず。だが、「連合チーム」が可能になったことで、9人未満の野球部も存続可能になったのだ。
今年も多くの地域で、連合チームが地方大会に参加している。たとえば、高知県は7チーム×4ブロックの28チームで地方大会を戦うが、3校の連合チームが1つ、2校の連合チームが1つ含まれているので、参加校数は31校ということになる。
高野連発表の加盟校数も2017年は前年から25校減り、3989校となったが、この中には連合チームで参加する9人未満の野球部も含まれている。大阪府の高野連の加盟校には部員数ゼロの学校も入っている。9人そろって地方大会に参加する高校は、この数字よりかなり少ないはずだ。
部員不足の救済策「連合チーム」の厳しい実態
連合チームの置かれた環境は厳しい。大阪府のとある公立高校を取材した。放課後、グランドにはぱらぱらと生徒が集まってくる。古びたバックネットを背に、硬式野球部員がキャッチボールを始める。わずか3人。本当は5人いるそうだが、2人はアルバイトで抜けている。指導する教師は、「学費と生活費のためにみんなアルバイトをしています。バイトがなくても、私が見ていないと、部活をしないで帰ってしまう子もいるので、忙しくても毎日顔を出しています」と話す。
その体つきは、一般にイメージされる高校球児とは大きく異なる。眼鏡をかけた肥満体の生徒や、とても小柄な生徒。私立のスポーツ名門校のヘラクレスのような体格の生徒を見慣れていると、生徒の体格のギャップにはショックを受ける。
使い古したグラブでキャッチボールをするしぐさもぎこちない。この学校も他校と連合チームを組むことが決まっているが、合同練習は週に1回程度、それでも全員がそろうことは滅多にない。部員は「大阪府大会で1勝したい」と抱負を語る。しかし「1勝」すら遠い目標だ。
大阪府大会では、連合チームは各校のばらばらのユニフォームを着て試合をする。統一のユニフォームを作る予算はないのだ。ほかの学校との実力差は明らかだが、大阪府ではシード制をとっていないこともあって、連合チームが甲子園を目指す強豪校と対戦することもある。
プロを目指す選手の鋭い打球が、眼鏡をかけた肥満体の内野手の体をかすめる。審判員の中には「一緒に試合をするのは危険ではないか」という声を上げる人もいる。早い回に大量点を奪われ、連合チームは早々に敗退する。多くの場合、スタンドには応援団はいない。知り合いがぱらぱらと声をかける中、生徒たちの夏はひっそりと終わる。
あたかも「格差社会の象徴」のような風景が、今年の県予選大会でも、全国で見られたはずである。
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