「夏の甲子園」の陰で危うい高校野球の将来

高校野球の部員数「減少局面」が鮮明に

今進行している野球の競技人口減少の原因の一つは「格差の拡大」にある。かつて、野球はいわゆる「ハングリースポーツ」だった。昭和の時代は、母子家庭の貧しい家で育った子供が、野球で立身出世をして親に家を買ってやるようなサクセスストーリーがよくあったが、今は、野球はカネがかかるスポーツになった。

用具やユニフォーム、ウェア代、遠征費用などに加え、今どきの高校球児はプロテインを摂取し、整体やマッサージなどで体のケアもしている。野球留学をすれば、寮生活を送らなければならない。プロ野球に行くようなトップ選手は学費、寮費免除などの優遇を受けるが、普通の選手はすべて親の負担となる。

経済格差が広がる中、経済的に余裕がない子供が通う高校では、野球部を維持することも困難になっている。そうした中、地方では、全国から生徒を集め、充実した環境で野球をさせる私立高が、甲子園出場を独占しつつある。福島県では聖光学院が2007年から11年連続、高知県では明徳義塾が2010年から8年連続、栃木県では作新学院が2011年から7年連続で、夏の甲子園に進んでいる。

何を変えていくことが大事なのか

経済格差は高校野球界で解決できる問題ではないが、「金がかからない野球」へと舵を切る必要はあるのではないか。

今、多くの高校ではネーム入り、校名入りの用具を指定された店から購入することになっている。バッグやトレーニング用品などもそうなっている。割高だ。兄弟のお古を使うこともほとんどない。中古品を購入したり、古いグラブを修理して使うことなどを奨励していくのも一案だろう。

そして「甲子園」の改革も不可避だろう。猛暑日が続く7月、8月の日中に試合をする高校野球は、「世界で一番過酷な環境でプレーする野球」になっている。

複数の強豪校の監督から「われわれが子供たちの健康を考えて選手を起用しようとしても、今の日程では、どうしたって無理をさせることになる。どうしようもない」という声を聞いた。

前述のとおり、特に負担がかかる投手については、今ではエースだけでなく複数の投手を用意する高校が増えたが、どの学校でもそうできるわけではない。いかに設備を整えようとも、医療体制を充実させようとも、限界がある。日程や試合方式の見直しは必然だろう。

また、甲子園のベンチ入り人数を18人から20人以上にするなど、できることはまだある。高野連は今春、延長戦での選手の負担を考えて、13回以降はタイブレーク制の導入を検討している。そもそも13回まで続く延長戦はあまりないが、それでも何も対策をしないよりはましだろう。しかしそれも早くて来春の甲子園「センバツ」大会からの導入になるという。過酷な夏こそ、タイブレーク制が必要なはずだが、即応できないのだ。

選手人口が減少に転じたと言っても、高校野球は3500以上の学校、15万人以上の競技者を抱える日本最大の野球競技団体だ。影響力は極めて大きい。「野球離れ」を食い止めるためには、小手先の改革、マイナーチェンジではなく今の高校野球の仕組みそのものを変えるべきだろう。

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「勝利至上主義」「エリート主義」を見直し、野球をするすべての高校生が、野球を心ゆくまで楽しむことができるような指導、運営体制を作るべきだ。現代のアマチュアスポーツを語るうえで最も重要な言葉は「プレーヤーズファースト」だと思う。スポーツは、まず、それをプレーする選手のためにあるという観点からすれば、高校野球はまだまだ改革の余地がある。

高野連は昨年11月に「高校野球200年構想」協議会を設置し、今後1年をめどに計画をまとめるとした。

この協議会は、2018年に「センバツ」が90回、「夏の甲子園」が100回を迎えることを受けて、次の100年に高校野球をどう発展させるかを考えるという趣旨だ。そこで重視されるべきは「伝統」ではなく、「高校生」「地域」「野球」の未来である。

そのためには大胆な改革があってしかるべきだ。明治から続いてきた日本アマチュア野球の「勝利至上主義」「エリート主義」「精神主義」を改めるべきだ。「一球入魂」に代わるコンセプトが必要だろう。

高校野球が大きく変われば、野球界全体もおのずと変化していく。今後の高校野球を注視したい。

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