「悲劇の投手、沢村栄治」の哀しすぎる真実 戦争に翻弄された「160キロ、伝説の剛速球」

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Q19. 沢村のように戦争で命を落とした野球選手はいたのですか?

はい。同じ巨人で沢村とバッテリーを組んでいた吉原正喜、闘将の異名で沢村と名勝負を繰り広げた強打者景浦將(大阪)、さらに中河美芳(イーグルス)、西村幸生(大阪)、石丸進一(名古屋)ら、多くの名プレーヤーが戦場に赴き、帰らぬ人となりました。

現在、東京ドーム(東京都文京区)の一画に、戦没したプロ野球選手73人の名前を刻んだ「鎮魂の碑」が建てられています。

「魂」を受け継ぐ者たち

闘志あふれるプレースタイルで、チームを鼓舞し観衆を沸かせた捕手の吉原正喜は、1944年10月10日、ビルマ(ミャンマー)で戦死しました。

吉原の背番号「27」はその後、森祇晶、大矢明彦、伊東勤、古田敦也、谷繁元信といった歴代の名捕手たちによって、いまに受け継がれています。

石丸進一投手は、神風特別攻撃隊に志願し、1945年5月11日、鹿児島県の鹿屋基地で出撃命令を受けました。

出撃を前に、彼が最後に行ったのはキャッチボールでした。戦友に向けてストライクを10球決めると、爆装した零戦に笑顔で乗り込み、沖縄方面で消息を絶ちました。

戦後、巨人は沢村栄治の功績を称え、彼の背番号「14」は、日本プロ野球史上初めての永久欠番に指定されています。

現在、全球団を通しシーズンで最も活躍した先発投手に贈られる「沢村栄治賞(沢村賞)」は、投手最高の栄誉ある賞であり、一流の証しとして各球団のエースたちがその奪取を狙い、毎シーズンしのぎを削っています。

終戦から72年、こうした「日本史の悲劇」を学び、野球をはじめ誰もがスポーツを心おきなく楽しめる「平和」を、あらためてかみしめる機会にしてください。

「人に負けるな。どんな仕事をしても勝て。しかし、堂々とだ」――。本記事を、沢村の残したこの言葉で締めくくりたいと思います。

山岸 良二 歴史家・昭和女子大学講師・東邦大学付属東邦中高等学校非常勤講師

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やまぎし りょうじ / Ryoji Yamagishi

昭和女子大学講師、東邦大学付属東邦中高等学校非常勤講師、習志野市文化財審議会会長。1951年、東京都生まれ。慶應義塾大学大学院修士課程修了。専門は日本考古学。日本考古学協会全国理事を長年、務める。NHKラジオ「教養日本史・原始編」、NHKテレビ「週刊ブックレビュー」、日本テレビ「世界一受けたい授業」出演や全国での講演等で考古学の啓蒙に努め、近年は地元習志野市に縁の「日本騎兵の父・秋山好古大将」関係の講演も多い。『新版 入門者のための考古学教室』『日本考古学の現在』(共に、同成社)、『日曜日の考古学』(東京堂出版)、『古代史の謎はどこまで解けたのか』(PHP新書)など多数の著書がある。

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