「落ちこぼれ」「吹きこぼれ」がない学校の秘密 1人の生徒が解く問題数は全国平均の4倍!

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コペンハーゲンにあるデンマーク第2のテレビ局「TV2」(写真:未来教育会議)

きっかけとなったのは、それまでの労働環境の改善が求められたこと。1988年の開局当時は年間2000時間だった放送時間は、チャンネル数の増加に伴って、2014年には年間4500時間に。番組の多様化、チャンネル数増加は進む一方で、TV2においても社員の長時間労働や不規則な労働時間が問題視されていた。

キャスターが閲覧する原稿表示モニター。足元のペダルを踏むと原稿が先に進むなどのインターフェースの工夫がされている。(写真:未来教育会議)

そこでTV2が行ったのがテクノロジーを活用した効率化だ。たとえば、局内には、キャスター以外の人間がまったく立ち入らずに番組制作を行う無人化ニュース番組撮影スタジオがあり、プロデューサーやADはおろか、ディレクターもカメラマンも立ち入らず、遠隔操作カメラでキャスターを映して放送している。

ニュース原稿もモニター上に表示され、手元に紙原稿を用意することはない。こうした対策により、効率的で生産性の高い労働が実現、社員のワークライフバランスが保持されている。

人間主導で活用していく努力が要る

これらの例から見えてくるのは、テクノロジーに対する人々の能動的な向き合い方だ。「専門家じゃないからわからない」「使いこなせないので不安」、あるいは「どんな影響があるかはわからないが、はやりだからとりあえず使う」……といった受け身の姿勢ではない。

ひるがえってわれわれはどうだろうか? たとえば、遺伝子組み換え食品を食べるかどうかや、原子力発電や自然エネルギーとの付き合い方など、自分で判断しなければならない問題は増えるばかりだが、主体的に事実を知り、自らの価値観に従って判断するという姿勢を持っているだろうか。

テクノロジーがますます進化していく中で、そのスピードについていけず、流れに振り落とされる不安は誰しも抱えるものだろう。そしてそこには、SF映画のように知らず知らずのうちにテクノロジーに主導権を奪われるかもしれないというおそれもある。それらを解消するためには、彼らのように、テクノロジーそのものに主体的にかかわっていき、味方につけ、人間主導で活用していく努力を続けるしかない。

スティーブ・ジョブズ・スクールでの一人ひとりの進度に合った教育においても、ワーグ・ソサエティが生み出すイノベーションにおいても、テクノロジーが果たす役割は大きい。テクノロジーの積極的な活用により、自分たちの手でよりよい社会をつくっていくことはきっと可能なのだ。

永井 恒男 Ideal Leaders代表取締役 Founder

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ながい つねお / Neo Nagai

1997年、野村総合研究所に入社。経営コンサルタントとして10年活動後、2005年に社内ベンチャー制度を活用し、エグゼクティブコーチングと戦略コンサルティングを融合した新規事業IDELEA(イデリア)を立ち上げ、以後10年間事業を推進。2015年4月に経営者向けエグゼクティブコーチング、組織変革コンサルティングを事業の中核とするコンサルティング会社、Ideal Leaders株式会社を設立し、現職に就任。上場企業の社長・取締役をクライアントとしたエグゼクティブコーチングの実績多数。様々なステークホルダーの共創によるソーシャルイノベーションを標榜し、企業とNPOのコラボレーションを進めるCo-creAction事業を推進中。また特定非営利活動法人日本紛争予防センター(JCCP)理事も務める。

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未来教育会議
みらいきょういくかいぎ / Mirai Kyouiku Kaigi

未来の社会、未来の人、未来の教育のあり方を多様なマルチステークホルダーで共に考え、共に豊かな現実を創造していくために立ち上がったプロジェクト。2014年発足。先進的な取り組みと課題の視察を行う「スタディツアー」、2030年の社会を洞察する「未来シナリオ」の制作と普及、多業種多企業が協働して経営改革や新規事業開発に向けたアイデアを創出する「21世紀未来企業プロジェクト」などを実施している。
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