ライバルより顧客を意識、ナンバーワンを目指す−−三宅占二 キリンビール社長
2008年上半期のシェアは、僅差でアサヒビールの後塵を拝したキリンビール。ただ、今年2月には先陣を切ってビール類の値上げを断行するなど、業界の盟主としての地位は不滅だ。07年にはグループとして持ち株会社キリンホールディングスに衣替え。国内では医薬品の協和発酵を、海外では豪州の大手乳飲料メーカーを買収するなど、多角化路線を鮮明に打ち出している。グループの中核企業としてさらなる変革をどう進めるのか、キリンビールの三宅占二社長に聞いた。
--少子高齢化や若者のビール離れなど、ビール類の国内総市場の環境は厳しくなる一方です。
3年連続で国内総市場はマイナス、市場シュリンクは避けられません。その中では、企業体質を強くし、収益性を向上させることが必要です。前回の中期経営計画でも150億円をコスト削減しましたが、07年度にスタートした中計でも100億円のコスト削減が目標です。昔と違って、達成には生産、物流、営業の各部門のヨコ連携がカギ。たとえば、荷物の受け入れの変更を特約店さんに営業がお願いするとか、お得意先も含めた構造改革が不可欠です。
--コスト削減という意味では、同業のサッポロビールとの共同配送も始めましたね。
自社内だけではなく、競争相手や異業種とも広く視野を持とうということです。競争するところは競争しますが、お客様には無関係のコストは協調してできるだけ削減していこうと。サッポロさんとの北海道での共同配送もしかり、サントリーさんとの缶ぶたの共同仕様も同様です。また、サントリー、永谷園、ハウス食品、日清食品が取り組んでいる段ボールの共同調達のプラットフォームを、使わせてもらっています。こういったサプライチェーンの効率化は今後、自社の枠を越えたところでもっと必要となるでしょう。
--コストカットのために、原材料を遺伝子組み換え作物に切り替えることはあるのでしょうか。
ビール各社は遺伝子組み換え品を使いませんというスタンスです。原材料の調達価格が高騰しているのは事実ですが、お客様の安心感が優先されるべきで、そのためにはプレミアムを払ってでも高いものを買っているのが現状です。今この方針を覆すつもりはありません。
--ただ2月には、業界に先駆けてビール類の値上げを断行しましたね。販売への影響は。
7月に入って猛暑効果でビール、発泡酒、新ジャンルとも飛ぶように売れています。やはり、お天気さまさまですね。こうなると、営業は家にいて、テルテル坊主でも作っていればいいと、この前もあるパーティで冗談を言ったほどですよ(笑)。
しかし、値上げ直後の2月と3月は正直厳しかった。しかも他社の値上げが五月雨式のスケジュール。流通サイドは値上げしていない他社の販促に力が入りますからね。元のペースに戻ってきたのは4月。でも、天気に恵まれなかった。さらに、他の食品でも価格改定をしていますから、消費者の財布のヒモが堅くなった。今年のビール類の総市場はマイナス2%と見込んでいましたが、他の食品の値上げの影響などを受けて、4%くらいにマイナス幅が広がりそうです。
--08年上半期の課税数量発表では、ビール、発泡酒、新ジャンル3部門ではまたしてもトップを逃しました。特にビール部門ではアサヒに水をあけられていますが、シェア競争には今後どう臨みますか。
当然、ナンバーワンになりたいという思いはあります。そこにはこだわっていきたいが、アプローチの仕方が重要です。かつて、1位に固執するあまり、お客様のほうを見ずに競合相手ばかりを意識し、ライバルがこういう商品を作ったからうちもと、すぐに追随していた。しかし、その積み重ねが、長年キリンを愛してくれていたお客様から「キリンらしくないじゃないか」という答えを突きつけられた、と思うのですよ。それが最大の反省点です。