その夜、弥生から怒りのメールが送られてきた。
「まだ結婚の約束もしていないうちから、『キスしていいですか?』とは、どういうことですか? 私のことは遊びですか? 遊びなら、さっさと断ってください。次のお見合いをしてください」
章雄にしてみたら、遊びだなんてとんでもない、本当に勇気を振り絞っていった言葉だったのだ。遊びでキスができるか。しかも、笑顔で降りていったのに、この失礼なメールはなんだ。
「僕も彼女とは、うまくやっていけないと思いました」
電話口で、章雄は明らかに怒っていた。
「ね、これは行き違いなんじゃない? 弥生さんは、『大好きな章雄さんにどんでもないことを言ってしまって、振られてしまう』と今泣いているそうよ。弥生さんも恋愛に不慣れだから、言われた言葉をどう受け止めていいかわからなくて心にもないことを言ってしまったんだと思う。ここは章雄さんが大人になって、今の弥生さんを大きく包んであげましょうよ。彼女のこと、好きなんでしょう?」
「はい、好きです」
「ならば、自分は遊びじゃないし、本気だということを伝えようよ。行き違いのけんかで育んできた関係をここで終わりにしたら、もったいないでしょう?」
私の言葉に、章雄は少し冷静さを取り戻したようだった。
「おっしゃるとおりですね。恋愛偏差値が低くてすいません」
そこで私もほっとし、笑いながらこう切り返した。
「本当だよ。一流大学を出ていて、お勉強の偏差値はものすごく高いのにね」
こうして仲直りをしたふたりは直後に婚約をし、成婚退会していった
結婚したら片目を閉じて相手を見よ
1年目ぶりに会った章雄と私は、この大げんかのことを懐かしく思い出した。すると、章雄が言った。「彼女は、自分が“こうだ”と思ったことは、人にかみつかずにはいられないタイプなんです。だいぶ柔らかくなりましたけど、それが彼女の性格の癖みたいなものだと今はわかっているので、そうなったときには、僕が“はい、はい”と言いながら折れていますよ」。
お互いの性格の癖を知りながら、けんかをしたり、歩み寄ったりして夫婦になっていく。「結婚する前は両目を開けて、結婚したら片目を閉じて相手を見ろ」とは、よく言ったものだ。
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