生きるのが楽になった。自分が変わったら、不思議と職場の人間関係も改善された。ちょうどそんなときに、私のことを知り、相談所に訪ねてきてくれたのだ。
面談後入会を決めたときに、私は章雄に言った。
「どんどんお申し込みをかけて、どんどんお見合いしましょうね。そこで交際に入ったら、メールは毎日入れる。デートは1週間のうちに最低1回、できればウイークデーの夜に軽く食事をして週末にも会って、1週間に2回会うことを目指しましょう。まずは、食事3回の壁を突破してね」
“食事3回の壁”というのは、以前、この連載の「『3回目の食事』前に必ずフラれる男性の特徴」にも書いたのだが、出会った男女の付き合いがうまくいくのは、食事が3回できるかどうかにかかっているというもので、婚活においては暗黙知だ。大抵が1度か2度会うと、関係が終わってしまう。3回の壁が超えられると、その後の交際も続いていくことが多い。
また、章雄のように恋愛経験がない男性は、どんどん出会って女性と対峙し、会話を交わしたり食事をしたりと、場数を踏むことが大切だ。そうした経験が蓄積されていくことで、いつかは女性のハートを射止めることができるようになる。野球初心者がバッターボックスで空振りを繰り返していても、いつかはホームランが打てるようになるのと一緒だ。
38歳・恋愛経験ゼロの女性との出会い
私の相談所に入会してからは、月に20人以上をお申し込みをかけ、平均で3人から5人はお見合いをしていた。最初のうちはお見合いしても断られることが続いていたが、だんだんと通過率もよくなり、活動7カ月目に入ったところで、現在の妻、弥生に出会った。
弥生もまた38歳になるまで恋愛経験がないままに年を重ねてきた女性だった。恋愛初心者同士、交際は順調に進んでいった。
ところが、このまま結婚に向かってまっしぐらに進むだろうと思っていた矢先、デート中に章雄が発した言葉を発端に、大げんかが勃発した。
ある日、弥生の仲人から私に電話がかかってきた。「昨日、斎藤さまとデートをさせていただいたようなんですが、なんだか小川が斎藤さまにものすごく失礼なことを申し上げたようで、今泣きながら、『きっとお断りをされてしまう』と電話をかけてきました。小川は斎藤さまのことを本当に大切に思っているんです。なんとか仲を修復できないでしょうか」。
いったい何が起こったのだろう。私はすぐに章雄に電話をした。「昨日弥生さんとけんかしたでしょう。何があったの?」と聞くと、章雄は少し憤慨したような口調で事の顚末を話し出した。
ドライブデートの帰り道に、彼女を家の近くまで送り、ドキドキする気持ちを抑えながら決死の覚悟で言った。
「キスしてもいいですか?」
これは章雄にとって、ファーストキスなのだ。が、弥生の顔が一瞬こわばった。
「えっ、いや、あの……」
弥生はこう言うと、笑顔を向けながらも車から降りてしまった。
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